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08

窓辺でうたた寝

呼び声に応えて形状を変えた刀、もとい造り子を振るい、鋒から甲高い啼き声とともに射出された紅い斬撃が向かってくる虚の頭の先から股までを一刀両断した。

「みょうじ、お前……。なぜ、お前が斬魄刀を……?」

戸惑いを多分に含んだ朽木さんの声につられて、手元の刀へと視線を落とす。
柄の先が折れ曲がり、鍔のない直刀へと変化したそれ。見た目が一護のものと大きく異なるけれど、やっぱり死神の力なのだろうか。
もしそうだとしたら、どうして自分が使えるのだろう。朽木さんの問いに対する答えは、残念ながら私の中にもない。

「──姐さーん! 会いたかったよぉー!」
「! コンか? コンだな、貴様!?」

とは言え、造り子がいなかったら私も朽木さんも無事では済まなかっただろうから、それに対する嫌悪感とか、そう言った類いのものは全くと言っていいほどない。むしろ、物心がついたくらいから誰よりも傍にいてくれた彼の名前を知ることが出来た嬉しさの方がはるかに大きい。
そんなことを考えていると、こちらへ一直線に向かってくる一護、正確には彼の体を借りたコンくんの姿が目に留まった。満面の笑みを浮かべながら朽木さんの胸へ飛び込もうとしたコンくんだったが、彼女の隣に立つ私の存在に気づきその足を止めた。

「お前、あの時の……」
「うん、また会えて良かった。自己紹介がまだだったね……みょうじなまえです」

あの時はそれだけの余裕がなかったと言うのもあるけれど、名乗ることも碌に出来なかったことがずっと引っかかっていたから、こんなにも早く機会が訪れたのは素直に嬉しい。ただ、状況が状況なだけにいつまでも喜びに浸っていられる暇はなく。

「待て。貴様が一護の姿でここにいると言うことは、一護はやはり死神化したのだな?」
「……あ! そう言えば、そのことで一護に何か頼まれていたような……何だっけかなぁ。確か何か持ってこいとか何とか……」
「──どうやら、ここも無事だったようだね」
「! 石田くん……?」
「みょうじさん? どうして君がここに……」

造り子曰く、コンくんの正体を見抜いたことや、空に走る亀裂に気づいた上で姿を目視する前にそこから出てくると分かったことも無意識の内に相手の霊圧を感じ取っていたからだとか。
そのアドバイスを元に彼の霊圧を探ってみると、消耗の激しさが窺える。指先からは血も滴っているし、ここにたどり着くまでに一体何体の虚を倒したのだろう。

「『ここも無事だった』だァ? テメーが蒔いた種のくせにふざけたこと抜かしてんじゃねーよ! 町中の人間を殺す気か!?」
「……やはり、これは貴様の仕業か」
「ああ、こうして面と向かって口を利くのは初めてだね……朽木ルキア。それと、黒崎の体に入った君……君の言うとおりこれは僕が始めた戦いだが、僕はこの町の人間を誰一人死なせるつもりはない! 例え黒崎が力尽きようと、僕が命に代えてもこの町の人間を守り抜く! 彼の……死神の前で全てを虚から守り通せなかったら、この戦いに意味などない!」
「……貴様、一体何を求めて……」
「……ッ、朽木さん、後ろ!」

不意に朽木さんの後ろの景色に亀裂が走った。空に走るのと同じものだと直感で確信し、咄嗟に紅い斬撃を放とうとしたものの、きっと間に合わない。案の定、亀裂をこじ開けるようにして現れた虚の爪が朽木さんへ向けて振り下ろされる寸前。

「──やっと見つけたぜ。石田ァ……!」
「黒崎……!」

一護もここへ向かっていたんだ。間一髪のところで割り込み、背後から虚の仮面を叩き割った一護の登場に思わず安堵の息が漏れる。

「ヘヘッ……ようやく見つけたぜ。本当なら今すぐテメーを泣かしてやりてぇところだが、その前にこいつをぶちのめさなきゃならねぇ!」

言うやいなや、一護はコンくんの胸ぐらを掴み。

「コン! テメー、何モタモタしてやがった。コラァ!」
「何で真っ先に俺にキレてんだよ!? あいつにキレた後でもいいじゃんよ!」
「うるせぇ! テメーがさっさとルキアの携帯持ってこない所為で、町中走り回る羽目になったんだぞ!」

今がどんな状況なのかも忘れて言い合いを繰り広げる二人に呆気に取られる。
周囲の虚は粗方倒したみたいだから今のところ安全だが、根本を解決したわけではないのだから仲間割れなんてしている場合でもないのに。そして、それは石田くんも同じ意見だったようで。

「ふざけるな、黒崎一護! 君の相手は僕だろ!」
「……ああ、分かってんじゃねーか。これは俺とお前の勝負……だったら、虚を何匹倒すだの何だの言ってんなよ! 俺とお前の二人でカタをつけようぜ。なぁ、石田!」

ふと、辺りの空気が重苦しくなったような気がして上空を見やると、亀裂へ向かって大量の虚が集まっていく異様な光景が目に入った。
最初に見つけた時よりもいくらか広がっているように感じる亀裂がバキバキと耳障りな音を立てながらこじ開けられ、周りとは比べものにならないくらい巨大な虚が姿を現した。

「な……っ!? 何、あれ……」
「大虚っスよ」
「……大虚?」
「何百もの虚が融け合って生まれる巨大な虚をそう呼ぶんス。あれにはあまり近づいて欲しくないと言うのが本音ですが……あなたのことだ。大人しく引き下がる気もないんでしょう?」
「……、うん……」

いつの間にか、一護と石田くんが集まった虚を相手に背中を預け合いながら戦っている。
今の自分にも虚に立ち向かえるだけの力ががあるのだから、友だちや町の人たちを守るために戦っているのに私だけが尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。造り子の問いに頷き心を決めると、二人の後に続いて階段を駆け上った。

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