あなたたちと会えたことが私には幸運だわ

 華やかな社交界の会場から離れた場所を、ユリアーネは歩いていた。装飾用の義手が、重く感じられる。
 一通りの挨拶は済ませたのだ。後は、一緒に来た祖父と父がなんとかしてくれるだろう。祖父にも、少し離れることは言ってあるし大丈夫なはずだ。
 ユリアーネは、自分より大きな男が苦手である。背が低いためだいたいの人は自分より大きいので仕方ないのではあるが、人が多いパーティ等では知らない人も多いため怖いのだ。
 そして、ユリアーネがあの場から離れたかった理由はもう一つある。彼女の目的は、今はある人物に向けられていたのだ。
 その人物を見つけ、ユリアーネは心が躍る。ユリアーネが心を許している数少ない相手。ギギ・ハインライン。家同士での付き合いから始まったが、同い年ということもありそれなりに仲良くなった相手だ。
 声をかけようとした時、そこにもう一人いることに気付く。白い髪をした子供が、ギギと楽しそうに話していた。
 二人が話している間に入っていいのかわからず、ユリアーネはどうしようかと悩む。ギギは、未だ異能がまだ発現していない。それを理由に虐めていたのであれば助けようとは思うが、見ている感じではその様子はない。
 やはり立ち去ろうかと思った時、白い髪をした子供がユリアーネを見つけた。
「君は……」
 見つかってしまってはしょうがないと自身に言い聞かせる。ユリアーネは、胸を張って自己紹介しようとした。
「ジュリー、何やってるんだ」
 出鼻をくじかれたような気がした。初めて会う人物に挨拶しようと思ったら、それよりも先に幼馴染が愛称で呼んだのだから。
 しかし、ここでへこたれるユリアーネではない。気を取り直して、ユリアーネは白い髪の、少年か少女かわからない人物に向かって自己紹介をすることにした。
「私はユリアーネ・ゾフィー・オーケンよ! 覚えておきなさい!」
 後ろに倒れるのではないかと思うほどに、ユリアーネは胸を張る。それを見て、ギギはなぜか笑っていた。なんとなくムカついたので、異能で軽く吹き飛ばした。
 ユリアーネの自己紹介に、白い髪の子供は柔和に笑う。そして、落ち着いた声で自己紹介をしてくれた。
「クロードヴィヒ・ハインケルです。よろしく」
 ハインケルという姓に、ユリアーネは聞き覚えがあった。最近、養護施設出身の子供を引き取ったということを聞いた気がする。
 変な目で見ていたからか、あるいは声に出していたからか、クロードヴィヒは変わらず優しい笑みを浮かべて教えてくれた。自分が、その子供なのだと。
 だから見覚えが無かったのだろう。ユリアーネは頻繁に社交界に出るわけではないが、それでもある程度は出ている。年の近い子供がいれば、声をかけたりもした。記憶力には自信があるのだ。
 クロードヴィヒは、ギギと同い年ということを聞いた。ギギと年齢が同じなら、つまりユリアーネとも同じとなる。そのことが嬉しくて、ユリアーネはクロードヴィヒの手を握った。
「今日の私は幸運だわ。だって、あなたという友と出会えたんだもの!」
 喜ぶユリアーネと対照的に、クロードヴィヒは少し戸惑っている様子だ。しかし、ユリアーネは気にしなかった。
 そして、三人で何気ない会話をする。本当に、ただ何気ない会話だ。普段家にいるときや、家族と出かけてるときにはできないもの。帰れば何を話したか忘れそうなものだが、それがユリアーネには楽しかった。
 しばらくすると、父が探しているのが見える。そろそろ、帰るのだろう。ここから離れるのは寂しいが、仕方のないことだ。
 帰る旨を二人に伝える。そして、手を振って別れの挨拶を告げた。
「今日は楽しかったわ。また、会いましょう」
 ギギとクロードヴィヒが手を振って見送ってくれる。ユリアーネは嬉しくあり、そしてまた次の社交界が楽しみなのであった。

 

 







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