私はその理由を理解していない

 コツコツと、硬質な靴の音が鳴る。別に隠れたいわけでもないため、ユリアーネは気にせず歩き続けた。
 目の前に、ブロンドの髪をした男を見つける。ユリアーネの唯一の兄であり、元人間の人造亜人。アプヴェーアに所属しており、幼少期に右腕を失う原因となった男。
「ご機嫌よう、我が愚兄」
 後ろから、声をかける。呼ばれたことがわかったのか、彼は振り返ってユリアーネを見た。
 目が合うたびに、ユリアーネは恐怖を覚える。今は怯えを持つ緑の瞳だが、以前一度だけ、憎悪を向けられたことがあった。それと同時に、右腕を失ったことも覚えている。
 それでも、なるべく気丈に声をかけた。SS隊という誇りが、彼女を奮い起こす。
 彼を呼んだ理由は、先程起こった怪物たちの暴動である。噂では、アプヴェーアでは一部内通者がいるという。ユリアーネ自身は怪物たちが反旗を翻そうと、このトメニアに出ようと特に興味はない。むしろ、出たいのであれば勝手に出て行けばいいと思っているところがある。
 それでも、この暴動を止めたいのは、彼女が敬愛する閣下のためだ。この国はどこか間違っている。しかし、そのことを声を大にして言うほどユリアーネは愚かではない。敬愛する閣下のためならば、自分の気持ちを押し殺すことも厭わないのだ。
「私がここで、なぜあなたを呼んだかわかるかしら」
 震えそうになる声を抑えながら、ユリアーネは兄である男に問いかける。ユリアーネは知っている。彼が迷っていることを。怪物たちに、感情移入をしていることを。
「わかっているでしょう。オーケン家に、無能はいらないわ」
 しかし、今彼がいる場所はトメニアである。例えいくら他国へ行ってその文化に触れ、憧れ焦がれても。亜人が優秀ではない、人間であったことを受け入れられても。そこに流れる血と、彼がこの国に残した『大切な何か』が、それを許してくれないのだから。
 ユリアーネの言いたいことがわかったのか、一息おいて、彼は告げる。
「心得ております。私は、あなたと、そして閣下の御心のままに」
 そして、綺麗に頭を下げた。彼が何を思っているのか、ユリアーネにはわからない。人間でり、蔑まれた彼の気持ちなど、高ランクの亜人であるユリアーネが理解できるはずもない。
 しばらく冷ややかな目で彼を見る。しかし、彼は頭を下げたまま動かない。恐らく、ユリアーネが去るまでこのまま動かないでいる気だろう。
 小さく溜め息を吐き、ユリアーネはここから離れることにする。一応、彼に釘を刺した。その後どうするかは、彼の自由だ。自分の思いを優先し怪物たちの手助けをするか、それとも自分の気持ちを隠してこちら側につくか。
 密かに、ユリアーネは楽しみであった。

 

 







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