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「ほらナマエ、いるよ」
「分かったから押さないでって‥!」

体育館の外。から、中を伺いながら友達は私の背中を軽く押した。やめて、やめてって。

しょうもないトランプゲームで負けただけだというのに、只今気が許せる男友達の英太に罰ゲームとして友達から告白させられようとしている私。なんでわざわざこんなことをしないといけないのか不服な所ではある。だって別に英太のことが好きとか、そういう訳じゃないから。絶対英太にも鼻で笑われそうじゃん?「どうしたんだよ」とかめっちゃ普通に言われそうだし、ただただ私が恥ずかしい思いをするだけ。‥まあ、だから罰ゲームなんだけどさ。

一歩を踏み出して部活終わりの天童君を捕まえると、英太呼んできて、と一言告げる。何故かルンルンで走り去っていく天童君に声をかけられた英太は、私の顔を見るなり目をかっ開いてばしり、と天童君の肩を叩いて駆け足で私の前へ。

「なに、‥わざわざこんなとこ来るとか、どうしたんだよ」

部活が終わったばかりで上下に動く上半身と少し息が上がっている声。英太と言えど、こんな茶番に付き合ってもらって申し訳ないとばかりに口を開く。

「えっと‥英太、あの、」
「なんだよ」
「英太のこと好き」
「‥へっ」

さあ、どういう反応がくるか。おかしそうに笑うか、お前大丈夫かよって心配そうに声をかけられるか、なんの冗談だよってさらりとかわされるか。‥の、どれかだと思っていたのに、目の前の英太はほんのりと頬を赤くして、ばっと片手で口元を隠したのだ。え‥?ちょっと待て、なんだその反応‥予想外なんですけど‥。

「それ、‥‥え、マジ‥?」
「えっ?‥え、うん‥?」
「嘘だろ、‥マジで、」

ええ、いや、あの、‥嘘ですけど。‥と言えるような空気ではない。その反応、おかしくない‥?ちらりと英太の後ろでこっそり待機する友達は、いや私は何も知らないよと驚いた顔で首をぶんぶんと振っている。その、‥まさかとは思うけど‥

「すげー嬉しいんだけど、俺もナマエのこと好きだし‥」
「‥う、うそ‥!?」
「じゃあ、‥その、今日一緒に帰るか‥」

はにかむように笑った彼は、男友達であると断言した私でさえきゅんとするような笑顔を放った。ちょっ‥なにこれ、展開おかしくない?呆然とする私を尻目に、周りの部員は静かに祝福モード。すぐ着替えてくるから待ってろ。するっと私の頬っぺたを撫でた英太は嬉しそうに部室へと向かっていってしまった。‥天童君の肩をまたばしっと叩いて。


***


1年片想いをしていたナマエに、一月前告白された。その時は嬉しくて嬉しくてたまらなくて、俺だけが想ってるんじゃなかったって部室でガッツポーズしたんだっけ。‥だけど、最初こそ舞い上がっていたから分からなかったけど、ナマエの様子が日に日におかしくなっていくのだ。ぼんやりしてたり、少し触れただけで気不味そうに目線を逸らしたり。

「ナマエ、どうした?」
「え、っあ、ごめん、なんにも‥」

ない。そう言いかけていたのだろうが、その声は道の横から聞こえてきた声に掻き消された。聞いたことがある声だから、多分クラスメイトだか誰かだろう。そんなことよりも気になるのはナマエのことで、ちょっと待てと一言、口を開く瞬間だった。

「瀬見君とナマエ、なんだかんだ続いてるよね」
「罰ゲームで告白とか‥あんたもナマエになにやらせてんのよ‥」
「だってあの2人なら冗談冗談〜ってなるかと思ったんだもん〜‥」
「あのねえ‥」

罰ゲームで、告白?突然重くなった足と、横でひゅっと息を飲んだ音。一つ間を置いてぐるんと首をナマエに向けると、俯いて微動だにしていなかった。‥やめろよ、そんな反応。

「‥‥なあ」
「っ、う、あ‥」
「今の話しホント?」

少し震えていた唇は恐らく肯定と言う意味だ。‥なんだよ、結局は俺だけが好きだったのか、今までの時間、お前は俺に合わせて付き合ってくれてただけってことだったのか?否定をしたい考えだったけれど、目の前で何も言わないナマエを見たら、頭に血がのぼってしまった。繋いでいた手は自分で切り離して、自嘲気味に笑うしかない。

「‥んだよ、」
「え、いた‥‥あの、‥あ、の‥」
「俺だけ舞い上がってた?ゲームとか‥お前どんな気持ちで1ヶ月過ごしてたわけ?笑ってたのか、‥俺が本気なの、気付いてて」
「ちが、」
「じゃあ何が本当なんだよ!!」

つい荒げた声は話をしていたクラスメイトの耳にも入っていたらしく、なんだろうとこちらを覗いた音が聞こえた。もうそんなん、どうでもいいんだけどさ。わかんねえんだよ、ずっと友達として付き合ってきた好きな子が好きだって言ってくれたのに、それが嘘だったわけだろ?

「‥別れよ」
「や‥」
「俺のこと好きでもねえ奴にまだ付き合えとか鬼みたいなこと言う奴じゃねえの俺は。‥思い返せば全然楽しくなさそうだったもんな、ナマエ」
「そうじゃ‥」
「もういいって」

終わりにしようぜ、こんなの。つい目頭が熱くなってくるのを耐えて後ろを振り向いた。俺はまだこんなに好きなのにって言ってやりたかったけど、もう、なにもかも無意味で。いっそ罰ゲームだったって言われれば嫌いになれるかもしれないのに、そういう言い訳も無しとか酷くね?

「待って、英太、ごめ‥ごめんなさい‥」

ぼすり。背中に頭がぶつかった感触がした。なんのごめんなさいだよ、とか野暮なことは考えない。いいから。ぎゅうと腹に巻きつかれた両手を解こうとしたが、珍しく力一杯離さないとしてくれているのが分かって、惚れた弱みか諦めてしまった。

「‥罰ゲームだったから‥‥後になって、英太のこと‥‥ちゃんと好きになったから怖かった‥」
「‥」
「言える訳ないよ、だって‥始まりが罰ゲームだもん‥」

始まりが罰ゲーム。結構その言葉グサってくんの分かってんのかこいつ。それでも必死に俺を行かせまいとしているのがやっぱり可愛く見えてしまった。でも、まだナマエのちゃんとした気持ちなんてわかんねえから。だから。

「‥お前な」
「だから、やだ‥謝るから、私英太と一緒にいたいっ‥」
「あーーーーーーー‥心抉ったり埋めようとしたり‥あーーーー!!!!」

ぐりんっと体をナマエに向けて、ぐいと顔を近付けた。誠意を見せろ。この馬鹿野郎。その言葉に俺の真意を読み取れるだろうか。好きならキスしてみろ。何度も何度も逃げやがって。そんな気持ちでおでこをくっつけた。

「英太、ごめんね。‥大好き」

涙で濡れた唇は塩っぱくて、そしてほんのり甘い。まだ信じた訳じゃねえからなってもう一回唇を押し付けた後、ぎゅうぎゅうに抱き締めてやった。苦しいとか我儘言ってんなよ、あと100回くらいは大好きって言ってもらうからな。

2017.10.27