▼▽▼


ああ、見ているこっちがやきもきしちゃう。

桃井さつきは、目の前で楽しそうに会話を続けている2人をじっと見つめながらそんなことを思っていた。幼馴染である青峰大輝と、高校で仲良くなった苗字ナマエは、ここ最近ずっと2人一緒にいるのだ。移動教室とかお昼ご飯とか、‥流石に部活にナマエが来ることはないけど。だから。‥誰が見たって分かるくらい雰囲気の良い2人だから、桃井はもう2人は付き合っているものだと思っていた。‥のに。数分前の2人ときたら。

「付き合っ‥!?そ、んなわけないじゃん何言ってんのさつき!!」
「誰だよっ、そんな噂流した奴」


いやいや大ちゃん、地味に取り乱してたのバレてるからね?そう考えながらさつきは溜息を吐いた。どう見ても好き同士じゃない。どうやったらその状態で付き合ってないとか言えるのよ、逆に周りも困惑してたじゃんか。

「よしっ」

しょうがないから人肌脱いでやるか!と、1人気合いを入れたさつきは、ベタな作戦を思い付いてとある人物の元へと向かった。大ちゃんにもっともラフに近付けて、煽りをしてくれるであろう人物。多分彼も、快く引き受けてくれると思う。さつきは次の試合のデータを纏めた資料を持って、体育館へと向かった。


***


「お、おった」

図書室で委員の仕事をし始めて2時間経った頃、ほとんど開かれていない扉が音を立てた。こんな時間に本の返却かなあと思いきや、制服ではないラフな練習着に身を包んで現れたのは男子バスケ部の主将さんだった。何度かお話はさせていただいたことはあるけど、そもそも今って部活中なのでは?‥それとも、早く終わったのかな。

「返却、‥ですか?」
「ああ、ちゃうちゃう、苗字さんに用があるだけや」

ちょっとアッチの椅子借りるなあ、と言いながら引き摺ってきて、カウンターの前を分捕って椅子に座った今吉さんの姿に、いやこの人一体何しにきたんだろうかと首が傾いた。

「一目惚れって自分信じる?」
「‥‥‥は、はあっ‥?」

そういえば今日はさつきに青峰君に付き合ってるの?とか言われたんだけど、周りから見るともしかしたらそう見えてるのかなあ。そうだったら嬉しいけど、青峰君が‥とか、ぼんやり頭を悩ませ始めた時だった。カウンター越しに突然主将さんが声を出したのだ。しかも、"一目惚れって自分信じる?"っていう謎のワードを口にして。

「‥練習きつかったんですか??」
「いや疲れてへんし」
「はあ‥そうですか‥」
「で、信じるん?どうなん?」

いや、どうなんでしょうね?そもそも一目惚れをしたことがないのでなんとも言えないんですけど、信じてもいいんじゃないでしょうか‥。なんとなく頭に出てきた言葉を適当に口にして、逃げるようにカウンターを後にする。‥視線が突き刺さっているような気がして振り向けないんだけど。なんて先輩に対して言える訳もなく。カラカラとまた扉が開く音がしたけれど、そちらを向く余裕はなかった。

「一目惚れしたって言うたら、苗字さん、なんて答えてくれる?」

ぴたり。返却された本をチェックしつつ構わないでおこうとしたが、それができないということに気付いてしまった。どうやら私はこの人に告白されているのではないか、と思ってしまったからだ。

「‥あの、私ですね、」
「ん?」
「好きな人が、いて‥」
「‥青峰やろ」
「えっ!?知って、‥!?」

知っててなお、この人は私に告白してるのか!?というかなんで知ってるんだ、主将さんとはほとんど話ししたことないのに!と、思い切り振り向いた直後だった。そんな主将さんの横に、驚いている青峰君とにまにまと笑う嬉しそうなさつきがいたのだ。

「なに、やって‥‥、」
「悪いなあ、俺が一目惚れっちゅうわけやないんやけどな?」

桃井が言うにはこいつがな、どうやら一目惚れらしいねん。見慣れない糸目(失礼)で笑って、こいつという人を指差す主将さんの先には青峰君で。え?いや、なに、貴方じゃなかったんですか?という声が出かかって飲み込んだ。それよりもまずいのは、私がさっき、青峰君のことを好きだと本人の前で肯定してしまったこと。

「‥あ、おみねくん‥」
「お前な‥‥簡単に騙されてんなよ‥」

小さく呟いたと思ったら、ぼすっと頭に乗った大きな手がそのまま私の体ごと引き寄せた。上から「見てんなよ、オラ!さっさとどっか行っちまえ!」って怒ってる声がする。私も見たいなあって言おうとしたら「別に一目惚れとかじゃ、‥ねえけど」って複雑そうに独り言。

「青峰君、あの、苦し‥」
「もうちょい我慢しとけ」

ぐぐぐと胸板に押さえつけられながら、私はじたばたともがいていたが、数分後に力が尽きた。ちらっと上を見上げてみたら、思いの外顔が赤かった青峰君の口元は照れ臭そうに緩んでいた。

2017.11.19