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脳内隅から隅までバレーボール。そもそも頭がバレーボールなんじゃないか。1にバレー2にバレー、3・4もバレーで5もバレーみたいなバレー馬鹿が私の家のお隣さんである。そして本日テストが近いということもあり、彼と同じくバレー馬鹿の日向翔陽と共に私の家で勉強会。ちなみにもうすぐ勉強会に無理矢理付き合わせられる予定の月島君と山口君とやっちゃんも来る手筈だ。
「だから、飛雄君それまた式間違えてるってば」
「あ?こっちがこれなんだから同じだろ。同じ【1】の中の問題だぞ」
「引っ掛け問題って書いてあるのにわざわざ引っ掛かってどうするの‥」
バレー脳筋影山飛雄。彼が私の家のお隣さんで、現在私の座っている隣に座っている。赤点を免れる為にこうして教科書と問題集を睨めっこしているが、全くもって成長が感じられなくて不安しかない。以前の東京遠征はなんとか行けたみたいでよかったけど、‥今回は果たしてどうなのだろうか。解けなくて少しイライラしているのか、シャーペンの筆圧が濃くなっている。
「あー、なんだこれ全然解けねえ‥教科書の印刷ミスじゃねーの?」
「だから、このαには別の数字が入るんだけど、別の数字を引き出す式が間違ってて‥」
「なー苗字さん、これなんでこうなんの?」
「おい、今俺が教えてもらってんだろーがこのボゲ」
「俺もこれ解けねーから全然進まねーの!」
あーほらまた喧嘩始まった!どうどう、ちゃんと教えるから、とばかりに飛雄君の右の頬っぺたを抓ると、むすりとした彼は舌打ちをしてすごすごと自分の教科書に戻っていく。私が少し注意すると飛雄君は大人しく引き下がってくれることが多いのでありがたい。そんな場面を見て、翔陽君は呆れたように肩肘を机についた。
「影山って苗字さんの言うことは大人しく聞くんだよな。なんで?」
「あ?」
「俺とか月島とかにそんな頬っぺたとか抓られると絶対キレるだろ」
「当たり前だろーが。ナマエとお前等を一緒にすんな」
ちょ、真顔でこの子何言ってんの。深い意味なんてきっとないだろうし、お前っていうのが翔陽君と月島君だから計る対象でもない(失礼)のに、あの飛雄君からそんな発言聞いちゃったらなんか照れるじゃないか。
ニヤニヤしそうになっている顔を頑張って引き締めていると、ピンポンというインターホンが鳴って、モニターに月島君達の顔が映っていた。やっときた!とばかりに何故か翔陽君が玄関に走って行ってしまったので、ぽつんと飛雄君と2人きり。ちらりと見たノートには、消しゴムで何回消したか分からない跡がたくさん残っている。‥なんだかんだ、頑張ってるんだよなあ。なんて考えていると、ぱちりと飛雄君と視線が絡んだ。
「顔赤い」
「えっ!!」
顔赤い。‥って、大体は誰が悪いのか予想がついているんだけど。そうは言えないまま苦笑いしていると、飛雄君の大きな掌がおでこに伸びて、ぺたりとくっついた。何が起こっているか分からなくて瞼を何度もぱちぱちしていると、飛雄君は首を傾げて思い出したように目を輝かせている。
「な、なに‥?」
「いや、‥なんか動物みてえ。ハムスター?」
熱あるかと思ったけど違えな。なんて言いながら離れていく掌が惜しい。もうちょっと触れてて欲しかったなーなんちゃってあはは。‥なーんて思っていると、それが顔に現れていたのだろうか、今度は頭の上に掌が乗った。‥飛雄君は私のことをペットか何かだと思っているのだろうか。ぐりぐりと撫でる掌は髪の毛を乱しているが、そんなのはどうでもいい。
「‥私ペットじゃないよ‥」
「?そんなこと知ってっけど」
「じゃあこの撫でてるのなに!」
「なんかお前寂しそうだったから。‥‥触ってほしいのかと思って」
え。ぴたりと固まった私の目の前で、さらりとそう言い放った飛雄君は違うのかよ、なんて少し不服そうに口を尖らせている。‥ちょっと待って、なんだかそれ、私が飛雄君好き!ってことになってるみたいじゃん!
「飛雄君、は、‥?」
「は?」
「え、いや‥‥あの‥」
「ナマエはペットじゃなくて女の子だろ」
そういうことじゃなくてですね。えーとですね。微動だにしないでいると、ガチャリと開いた扉から翔陽君と月島君達が入ってきて、何かを察した飛雄君の手がさっと離れていった。やっぱ、他の人に見られたくはないんだなあ。そう思うと、少しだけ耳を赤くした飛雄君がもしかしたら‥なんて予感がしてきて、余計に顔が熱くなった気がした。
2017.08.25