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「ごめん、待った?」
「ん〜‥大丈夫です‥」

東峰先輩が着替え終わるのを待つ為に、清水先輩ややっちゃんと帰るのを断って数分後。花壇でぼんやりとしていると奥からバタバタと大きな影が走ってくるのが見えた。やっちゃんがマネージャーとして入部した後、続くように私もマネージャーとして男子バレー部に入ったが、まあその理由も割と単純明快で東峰先輩がかっこよかったからというのがそれだ。そうして紆余曲折あったにせよこうやって今無事に男女として付き合える関係になれたのだ。

‥だがしかし、元々体力が無い私からしたら未だ仕事量に慣れないのも事実であり、結構今、‥眠かったりする。

「どうしたの?疲れた?」
「あ‥いや、大丈夫です、疲れてるのは東峰先輩ですよ。今日もお疲れ様でした」
「ナマエちゃんもお疲れ様」

ふわりと頬っぺたをくすぐられるように撫でられて、思わず猫みたいにすり寄って体をくっつけた。そうすると先輩は照れながらも幸せそうに笑ってくれるのだ。強面なのにというそのギャップに私はやられたと言っても過言ではない。

「お前らは周りに気を使っていちゃつきなさいよ」
「俺東峰旭って空気読む奴だと思ってたべ‥」
「うわっ!?ふ、2人ともなんで、帰ってていいって‥!!」
「次の練習試合の日程表渡しそびれてたんだよ。これ3年用な」
「あ、ありがとう大地‥」

すりつけた体はやんわりと東峰先輩から離されて、私は思わず頬を膨らませる。折角良い雰囲気になってたのに、折角2人きりだったのに。そう思うのが我儘だってことは分かってるし普段なら一歩引いている所ではあるのだが、今日はどうも甘えたいという欲求が強いらしい。ゆらりと片手が揺れているのを見て、そっと指を掴む。すると、ぴくりと震えた後に驚いた顔で先輩はこちらを向いた。

「な!?なに、?どうしたのナマエちゃん」
「澤村先輩も菅原先輩も知ってるし、部活終わったし。‥‥少しくらい良いかなって‥‥‥‥嫌ですか‥?」
「い、嫌‥‥ではないよ、嬉しいけど‥」
「なんだよ、旭の癖に寂しがらせてんの?」
「お前どこまでへなちょこなんだよ」
「そんな、寂しがらせてるつもりは全くないんだけど‥!」

困った顔で私の顔を覗き込んでくる姿に、思わずぷふふと笑いそうになる頬をなんとか引き締めた。ごめんなさい先輩、別に困らせるつもりはなかったんです、でも、やっぱり寂しいっていうのは当たってます。なんのしがらみもなく一緒にいれるのは部活後くらいで、たまに屋上で一緒に食べるお弁当の時間。ほんの少しのお休みでデート。ほら、好きだからこそたくさんいたくなるの。東峰先輩は違う?

流石にそんなことをここでは聞けないから、握っていた指をそっと掌へと変えてみる。そうするとどうも私の様子がおかしいと思ったのか、先輩は2人にそそくさと手を振って私の掴んだ手を引っ張った。

「なんだあれ、惚気か?」
「ナマエちゃんに見せつけられちゃったなあ〜」

嫌な後輩で嫌な女だ、私は。そう考えていると、2人から遠く離れた所で東峰先輩はぴたりと止まった。もしかして怒ってたりして‥‥?大きな背中をそっと眺めていると、ちらりとこちらを見た先輩はもう片方の手で口を隠していた。

「もう‥‥ナマエちゃん‥」
「だ、だって‥‥」
「そういうの駄目。‥‥可愛いことしないで」
「かわっ‥」
「‥大地やスガでもナマエちゃんのその顔は見せたくないからさ‥」

あの、先輩‥顔、真っ赤なんですけど‥。頬っぺた熱そうだなと手を伸ばせば、払うように押しのけられて逆に手首を掴まれた。とうとう両手とも使えなくなってしまって残念がっていると、「ナマエちゃんばっかり余裕なのずるい」なんて一言があった後に、耳元にリップノイズがした。

「‥‥そこは口でいいと思うんですけど‥」
「それはまた後で。‥たくさんさせて?」

何その可愛いお願い。囁くように言われて心臓が飛び出るかと思った。しかもたくさんさせてって‥‥なんてこと言うだこの人‥。ぱくぱくと魚みたいに口を閉じたり開いたりしていると、満足そうに先輩は笑った。とは言え頬っぺたさっきより赤いんですけど大丈夫ですか?‥まあ私も、負けないくらい真っ赤なんだろうけど。

2017.09.18