「ねっむ‥」

休日、電車に揺られているとそれなりに大きい欠伸が出た。めちゃくちゃ眠たい。駅につく度次々と乗り込んでいる人の波をぼんやりと眺めていると、少しずつうつらうつらと睡魔が襲う。まあ別に寝てもいいんだけど、どうせ急いでないしもし乗り過ごししたら戻ればいいし。

段々と駅の到着音が子守唄と化していく。今日は何食べようかな‥ブリ食べたい‥和食とか久しぶりにいいな‥あ‥ダメだ眠い‥

「あれ〜?‥‥真梨ちん? 」

自動ドアが開いた先、随分デカイ人乗ってきたなあなんてうつらうつらしていたら突然話しかけられて覚醒した。でかすぎだし、そんな大きい知り合いいないんだけど!と思って顔を上げれば、ちゃんと知り合いだった。‥けど、ここで出会うなんて思わないだろう普通。そもそも今日は部活じゃないのか。ぽかんとしていると、どさりと隣に座り込む音がした。

「1人で何やってんの?」
「こっちの台詞ですよ。部活は休みですか?」
「そー、休み」
「そうですか」

相変わらずお菓子は片手に持っているし食べている。ここは一応公共施設だし、さすがに注意しようとしたら食べるのをやめていた。‥おお、なんというか、人並みの配慮はちゃんとあったのか。少し安心した。

「紫原君はどこか行くんですか?」
「パンケーキ」
「‥はい?」
「だから、パンケーキ食べに行くんだって」

‥パンケーキって、あの女子が好きなやつ?生クリームとかバナナとかマンゴーとかチョコとか色々のったやつ?紫原君1人で?‥え、正気?

「この間行列作ってたらしくってさあ、1回行かなきゃーと思ってたんだよね〜。キャラメルコーティングの珍しいパンケーキがあるんだけど〜、‥あ〜早く食べたい‥!」

マジかこの人すごいな。しかもパンケーキのお店って言うからには店内の女子率高いんじゃないのか。いやまあ確かに彼は気にしなさそうだけど。というかキャラメルコーティングのパンケーキって私も気になる。

そのままずっと紫原君のパンケーキ講座を聞いていると、降りたい駅に到着する。お菓子の材料がふんだんに揃ったお店に行く為に降りる必要があるので、パンケーキ講座もそこそこに立ち上がると、なんと紫原君も立ち上がった。降りる場所が一緒だったらしい。そうしてそのまま2人で駅を出ると、目の前に映ったのは長い列を作った女子の団体。うわっ凄いな。私はこんなに行列を作るお店に並びたくはない女だからとスルーして通り過ぎようとしたら、紫原君が私の腕を掴んで立ち止まった。

「‥?パンケーキいいんですか?」
「ここだし」
「‥え?」
「だから超人気なんだって〜。全然待てるし」
「凄いですね。私は無理です。とりあえず腕を放してください」
「女子いた方が入りやすいから一緒に行こ」
「っは!!?」

ヤバ、凄い大きい声が出た。自分でも驚いてしまったけど、紫原君はもっと驚いている。当たり前か。いや無理、別に紫原君とパンケーキ食べるのはいいけど、この行列に並ぶのが無理。

「勘弁してくださいよ!こんな行列に私も並べっていうんですか!?」
「えーいいじゃん。しかもさっきパンケーキの話し興味津々に聞いてたからどーせ気になってるんでしょー?キャラメルコーティングパンケーキ」
「うッ‥」

痛い所をつかれて思わず口がへの字に曲がる。そりゃあ気になりますよ、気になりますとも。でも、"行列に並ばない"のと"並んでキャラメルコーティングパンケーキを食べる"のを天秤にかけたら、すでに"行列に並ばない"に傾いているのだ。

「並ぶのイヤでもパンケーキの話ししてたらすぐに順番くるって〜」
「この行列見てそんなこと言うのおかしい‥」

10m先に見えるパンケーキのお店を指差して言うと、そう?なんてしれっとした顔をした紫原君が首を傾げた。‥ああ、スイーツ男子って怖い。

2017.03.26

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