「男子バスケ部のマネージャー募集してないのってホント?」
「うん、なんか声かけてる人いるんだって‥」
「そうなの?」
「2組の戌飼さんって人らしいんだけど‥」
「え、その人知ってる!中学の時体操部で全国出てた人!確か一時期話題だったよねー」
「ええ、体操部?バスケ関係ないじゃん」

しわくちゃになった入部届けを眺めながら歩いていると、遠くから女子生徒2人の声が聞こえてきて思わずぴたりと足を止めた。2組の戌飼って私のことなんですけど。恐らく同じ学年だろううちの1人は、どうやら少し気持ちが沈んでいるようだった。‥って、私がそんなことを気にしても仕方がないのでとりあえず早く帰りたい。話し込んでいる所申し訳ないが、そこに入ってるんです私の靴。

「なんか大会で大怪我したらしくって、復帰できないんだって」
「ええ‥そうなの‥?」
「見た感じ普通なんだけどね。どこ怪我したんだっけなー、‥足だっけな?でも本人はマネージャーやる気ないって噂だけど」
「そんな、だったら私マネージャーやるのに‥というかやりたいのに」
「あんたの場合は福井先輩いるからでしょー?ほんと下心しかないですなあ。バスケのルールもよく分かんないクセに」
「そんなのどうにかなるもん」

さして人のこともよく知らない癖に何をつらつらと。しかも、なんだか話を聞く限りではどうも長く続かなそうな理由だ。一度体育館で練習を見たから分かったことだけど、そんな中途半端な人が居ていい場所ではないのだ。試合中にほわほわと選手をなんとなく目で追っていればいいポジションでしょ?なんて考えはお門違いもいい所。‥なんだか少しだけムッとした。

「もう1回荒木先生に掛け合ってみれば?」
「無理って言われた。貴方マネージャーに向いてないからって‥」
「ゲッ、マジか!辛辣!」
「でも、絶対やれるのに!!」

その謎の確信は一体なんなのか。強豪と言うからには、選手はもちろん、マネージャーだってその気持ちで部活に挑まなければいけないと思う。それを分かってないのに絶対やれるなんて言わない方が良い。自分達の時間を削ってでもバスケに打ち込んでいるあの人達に失礼だ。

「まあ適度にやれたら大丈夫だって。ついてくからもっかい行こ!」
「‥うん!ありがと、」
「ちょっといいですか」

絶対面倒臭いことになるって分かってるのに、別に男子バスケ部になんの思い入れも無いのに、私は一体何をやっているんだろうか。なんとなく一言言ってやらないと気が済まなくなって、無意識に動いた右足。私の姿を視界に入れた2人の女子生徒は、目を真ん丸にして驚いている。そして私も自分の行動に驚いている。‥らしくなくバカだ。

「え、戌飼さん‥!?」
「え!?」
「"適度にやれたら大丈夫"って、失礼だと思いませんか?」

ああ、言っちゃった。ぽかんとしている2人の顔を見て心の中で盛大に溜息が出る。その言葉を理解した内の、マネージャーになりたい子の方が顔を分かりやすくカッと赤くさせた。

「あ、‥えーっと‥」
「な‥別に、適度にやれたらいいじゃん!マネージャーなんてそんなもんでしょ!」
「そんなもん?マネージャーだって部員ですよ。全員の為に貢献できないんだったらそんなの邪魔だと思いません?少なくとも私は邪魔だと思いますけど」
「‥!」
「そんな緩んだ考えでマネージャーやるなんて言わない方がいいですよ」
「ちょ、ちょっ‥」
「ああ‥すみませんお話中に。私はこれで」

2人の間から靴を取って、口をぽかんと開けていた女子生徒は半泣きになりかけの彼女を見て慌てている。‥別に背中を押する言葉をかけてあげればよかったのにと思ったが、時すでに遅し。私もなんでつい暑苦しい真似をしたんだかと頭を掻いた。

‥本当はほんの少しだけ羨ましかったのかもしれない。あの頃の私みたいに打ち込める何かが、彼等にあるということが。入部届をぐしゃりとゴミ屑みたいに丸めると、近くのゴミ箱に投げ入れた。

なんだろうか、‥‥‥‥この、後ろめたいような気持ちは。

2017.03.13

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