『姉ちゃん久しぶり!』
「空‥耳元煩いんだけど‥」
『わり!電話久々だからちょっと興奮して!』

というか何故こんな時間に。とある平日の昼間である。まあお昼休みだし、先生いないからいいけど。隣で「誰?姉ちゃんってことは弟!?」なんて煩い千早さんが口からご飯粒を飛ばしている。ホントにやめて。

「今日学校じゃないの?どうしたの」
『さっき顧問から言われたんだけど、俺次の大会のメンバーに選ばれたって!』
「そう。よかったね。陸は?」
『陸から直接また連絡いくんじゃね?受かったっていう!』

それ君が言っていいのか?疑問には思ったが、知らないふりしておけばいいかと空には言わないでおいた。双子の弟達、空と陸。名前と同じように性格も正反対だ。折れないで頑張ったかいがあったじゃない。空の喜ぶ顔が目に浮かぶようで、私も嬉しい。

『俺!結果残すから!絶対!』
「うん。頑張れ。とりあえず煩い」
『ゲッ、やべ、先生来た!また連絡する!』

一方的に電話をして、一方的に電話を切る。最近もこんなことがあった気がするが、気にしないことにしよう。画面の暗くなったiphoneを見て、煩い空の声を思い出しながらつい頬が緩んだ。性格こそ違えど優しい彼等は、姉である私が大好きらしい。平日の昼間に電話をしてくる程に。

「なんかすごくイケメンの声だったんだけど!ぽちの弟なの!?」
「ちょっと千早さん米粒‥」
「そりゃあおにぎり食べてるから飛ぶよね!」
「飲み込んでから喋ってって言ってるんです」

飛んだ米粒をティッシュで取ってゴミ箱に捨てる。貴方は一体何歳児ですか。そう突っ込みたくなるほどのいい笑顔である。

「仲良いんだねえ、ぽちはいいお姉ちゃんなんだねえ、よく分かるわあ〜‥」
「なんなんですか‥」
「あ、真梨ちんいた〜」

いよいよカオスである。とうとうこの男、まるでここが自分のクラスであるかのように普通に入ってきた。何の用事だろうかと思ったところで、私と紫原君の間に割って入ってくる千早さんの忠犬ぶりと言ったら‥忠犬とはいうが、チワワやパピヨンと言った、所詮小型犬ではあるが。

「残念だがぽちは渡さない!」
「雅子ちんから聞いたんだけど、真梨ちん体操部だったんだってね〜」

ゲッ。今この場でそれを言うのか。しかも千早さんの話、全く聞いてないし。大きな手で千早さんをなんなくどかして、紫原君はどっかりと目の前の席に座る。ついでに私のお弁当箱から唐揚げを一つ奪っていった。言わせていただこう、最後の唐揚げである。

「お〜、冷めてるのにジューシー」
「私が体操部だからなんだっていうんですか。唐揚げ最後だったのに‥」
「この間体操部の顧問と2人で話してたでしょ〜?あの後雅子ちんに聞いたんだよね〜」
「そうですか」
「まあ俺的にはさあ、理由とか知んないんだけど〜。体操嫌になってんだったらコッチ手伝ってくれればいいじゃん?俺割と大歓迎〜」

割とってなんだ割とって。しかもなんとなくお菓子に下心向いてるのが読めてしまうんですけど。私をなんの人だと思ってるんだ。

「お菓子目当てなら御門違いですよ」
「別にそんなんじゃねーし。ついでにお菓子でもあれば〜とは思ってるけど〜」
「じゃあなんで‥バスケに無知な私が入っても利点なんてないと思うんですけど‥」
「それは〜‥勘?つか、俺真梨ちんのこと結構気に入ってるし」
「は!?いやなんか知らない情報いっぱいなんだけどとりあえず紫原君にぽちは渡さむがっ」
「もーほんとさあうっさいんだけど君。割り込んでこないでよ」

勘、とは。呆然と固まっていた私の手から、炊き込みおにぎりを問答無用で齧った紫原君。もういいですそれあげます。一言告げて席を立った。‥ああ、入部届さっさと捨てよう。

2017.02.19

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