「なにこれめっっちゃウマいんだけど…!」
「…」
「わ、私の、ぽち、弁当…が……」

私のお弁当をむぐむぐと頬張る巨人と、怒りに震えている千早さん2人に間を挟まれて私は硬直していた。…これは一体どうしたらいいのか分からない。今日初めて会ったばかりの千早さんに、名前すらも知らない巨人。高校生活初日からこんな状況になるなんて、誰が予想しただろうか。っていうかぽち弁当って何…?

「ア、アンタ今日1年で噂されてた紫原君でしょ!?なんだっけ、キセキの世代とかいうバスケ部!!確か!!今日練習あるって知り合いから聞いてるけど!?なんでこんな所に!!」
「えー?なんでオレの名前知ってんの〜?」
「いやいや今言った通りでしょーが!!人の話聞いてないんか!!」
「うるさいなあ…あ、これもやばい、ウマ」
「あー!ちょっと私にもちょうだいよ!!」
「なんなのさーほんっとウザイんだけど。ヒネリ潰すよ〜?」
「紫原君のナリで言われたらシャレになんない!!!からやめて!!」

私を挟んで喧嘩をするのはやめていただきたい。ぽいぽいとサンドイッチその他もろもろを口に運んでは千早さんがきゃんきゃん叫んでいる。ていうかバスケ部なんだ。へえ。まさにバスケに有利そうな体格してますもんね。そう思いながらお弁当の中身をそっと覗いてみると、某有名メーカーのこんにゃくゼリーが1個残っているだけだった。この人初対面の人のお弁当なのになんて容赦ないの。

「あー美味しかったー…お礼に…あ、まいう棒もうないや…これあげるよ〜、飴好き?」
「飴、?」
「うん。苺ミルク」

けふ〜、なんて図体に似合わない音を口から出して、にへら〜っと笑った巨人はポケットから2つ、これまた某有名メーカーの飴を取り出した。お弁当とこの飴が同等の代物だというのか、というツッコミはぐっと飲み込んで、驚く程落ち込んでいた千早さんを指差した。

「私はいいです。それよりも、こちらで放心している千早さんにあげてください」
「え〜?なんで?」
「食べ物の恨みは怖いんですよ。さあ早く、恨まれないうちに」
「もう恨んでるわ!!」

ぎゅん!としょんぼりしていた顔が突然の般若だ。千早さん顔怖い。

「ていうかアンタに興味はないんだけどー」
「こっちだってこれっぽっちも興味ないわ!」
「千早さんこんにゃくゼリーどうぞ」
「ぽち優しい!!紫原君最低!!」
「めんどくさいなーもー」

そう言いながら渋々ぽいっと飴を投げ、それを千早さんはわたわたしながら受け取ると、「こんなんで!私の恨みは晴れない!」とかなんとか言いながら速攻で包みを開けているのが目に入って思わず笑った。怒りながら飴は口の中である。なんとも単純だ。

「ねーまた作ってきてよー」

空のお弁当を受け取って蓋を閉じていると、勝手に中身を食べてしまった癖にそんなことを言い出した巨人は絶対に自分勝手である。でもその声色が妙にカワイイというか、おねだり上手な巨人というか。数秒かかってやっとぶんぶんと首を横に振った私は、危ない危ないと胸を撫で下ろすしかなかった。

「えーなんでー?」
「なんで‥?なんでと言われても私は貴方のなんですか、友達ですか…」
「そーだね、じゃあ友達になろ。紫原敦。そっちも名前教えて」
「友達になったからってお弁当作るわけではないんですけど…」
「えーー」

子供みたいにぶすりとする顔が身長の大きさとアンバランスすぎてなんとも言えない気持ちになってしまう。けれどそんなことを言われても作ってくるわけではない。何故他人にわざわざそんなことをしなければならないのか。

「えーーってなんですか、こっちの台詞です」
「もーぽちどっかでお昼食べて帰ろ!!」
「へーぽちって言うの?変わった名前だね〜」
「違います。戌飼真梨です。ぽちっていうのは千早さんが勝手に呼んでるだけです。お弁当は作ってきません。さようなら」
「えーー!!」
「ちょっ!!なんで私も置いてくのさー!!」

私は人の為にお弁当作ってるわけじゃないです!という捨て台詞を残しつつ、足早に中庭を離れるも、マイペースな声ときゃんきゃん煩い声が後ろの方でずっと騒がしかった。…っていうか、巨人、もとい紫原君はバスケ部の練習に行かなくていいのだろうか。まあいいか、赤の他人のことなんて。溜息を吐くと、家の近くに可愛い喫茶店があったのを思い出した。…ああ、お腹減った。

2016.06.24

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