「桜ちゃんそれイジメじゃん!!」
「あー、いじめられてるっていう自覚ある」

結局思わぬ来訪者の登場で、適当にご飯を作って机に料理を置くと、私はさっちゃんの隣に座ってお話で春巻きをつついた。目の前では未だアオと戯れる青峰がいたが、食べ物を見るや否や膝の上にアオを置いて同じく春巻きをつついている。

「つかお前料理できんだな」
「そりゃ人並みにはできるでしょ。勉強できないからって料理できないと思ってんの?」
「隣に未知の物体作る奴いんぞ」
「未知‥?」
「青峰君失礼だから!!」
「本当のことだろうが」

本当に仲良いなあこの2人は。そう思うと同時に、ツキンと心臓のどこかが針に突かれたみたいだった。まさか、さっちゃんに嫉妬している痛みだとでも‥?いやいやほんと洒落になんない、好きだと自覚してこれか。私男見る目なかったんだなあ(失礼)。

「さっちゃんって料理苦手なの?」
「壊滅的。見るに耐えないゲテモノ」
「あーもう!!やめてよ!!!」
「意外‥」
「それよりだよ桜ちゃん!!私は本当に陸上部の人がさあ、」

さっちゃんは酷く私のことを心配しているようだったけれど、別に際立って酷いことをされているとはぶっちゃけ思っていない。個人競技なんて戦いの嵐なのは分かっているから、少しはしょうがないなあとは思っているのだ。ムカつきはするけれど。だから一応割り切ろうとはしている。‥まあそれより、キャプテンのあのモテているという自覚の無さが正直怖い。

「アオー、ご飯はー?」
「わう!」

私のご飯という声がけに、ぱたぱたと尻尾を振りながら青峰の膝から離れて駆けてきた。可愛い奴め。そうしてちらりと青峰をみると、それはそれは面白くなさそうな顔で私を見ていたのだ。‥なんだこいつほんとになんなんだ、アオが離れてしまって寂しいのか。‥ああームカつくけどほんとそのギャップなんなの!!!

「‥青峰、あとでアオと遊んであげてよ」
「おー」

視線を合わせてニカッと笑った顔にまた心臓が大きく鳴った。今この時ばかりはアオが羨ましい。私はいつも口喧嘩とかばっかりだからなあ。‥多分、青峰には女としては見てもらってないんだろう。そりゃそうだ。あんな出会い方してるんだし。‥思い出したくもない。

「あ、そうだ桜ちゃん」
「ん?」
「今更だけどアドレス!交換しよ!」

確かに今更だな。だけど、この学校に入って誰ともアドレス交換なんてしてなかったからか、単純にとても嬉しくて鞄からガサガサと携帯を取り出した。あんまり得意ではない携帯の操作も、さっちゃんの優しい指導により無事登録完了。私からメールしてアドレス送ればいい?うん!オッケー!そういえばここの機能ってさあ。そんな会話をだらだらとしていると、机の上にガランと置かれた携帯電話。

「登録しとけ」
「‥‥‥‥。なんで?」
「あ?そいつに会いにくんだよ」

お前の犬だろーが。指を差した先にはアオの姿である。机の上に置かれた携帯は青峰の物だった。あ、そういうことですか。ほんのすこーしでもドキッとした私の心臓の痛みを返せ。青峰の態度に少しカチンときていると、何故か私の携帯に青峰のアドレスを登録し始めたさっちゃんに目が点になった。

「はい!」
「いや、はいじゃなくて‥‥」
「もー、交換したいならちゃんと言いなよ、青峰君はほんっと素直じゃないんだから」
「アホか」
「アホはどっちよ!」

目の前の痴話喧嘩に、ほんのりと頬が熱くなるのが分かった。いやいやなんだこれ、私のキャラじゃないし。冷めた反応をする青峰だったけど、どこか嬉しそうだったのは目の錯覚だろうか。まあアオのお陰ではあるのだれど。そうしていつの間にかゲットした彼のメールアドレスを見て、私はまたほんの少しだけドキッと心臓を高鳴らせるのだった。‥とはいえ、使う時がくるのだろうか

2017.09.25

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