「ただいま‥」
「アンッ!!わうっ!!」

おおう今日も元気だなあ。扉を開けた瞬間に飛びついてきたアオに、わしゃわしゃよしよしと頭を撫でる。20時過ぎのこの中途半端な時間。何を作ろうかと一瞬考えたけど、今日の部活での嫌な感じが頭を掠めて一気にやる気をなくしてしまった。とりあえずアオを抱えたまま靴を脱ぐと、鍵をかけようと扉に手をかける。そうして閉めようとした瞬間だった。何かに挟まったと同時に物凄い声がした。

「っでえ〜!!!!!!」
「は、‥‥‥は、はあ!!?あんたこんなとこで一体何やってんの!!?」

扉のすぐ外で蹲る、どうやら足を扉で挟まれたらしい男に声を荒げるしかない。ごろりと下に転がったバスケットボール。そうして青みがかった髪の毛の色。どう見ても間違いなく青峰だ。こいつなんでここにいるんだろうか。全くもって意味がわからないし全然気付かなかった。そうして同時にふと気付く。その隣にさっちゃんがいたことにも。

「さっちゃんもどうしたの!!?」
「ふへへ〜、ごめんね!つけてきちゃった!」

いやそんな可愛い感じでつけてきちゃった!とか言われてもなあ。てへぺろピースなんてされちゃったらとうとう私も思考を放棄するしかない。未だ悶絶する青峰を間に挟んで、アオが大きく声を出した。

「わう!!アン!!アンアン!!」
「わ、ごめ、ごめんね!吃驚しちゃった?」
「多分私が1番吃驚したけどね‥」
「聞いてよもう!今日も青峰君サボったんだよ!!信じられる!!?ちゃんと真面目に出なよって桜ちゃんにも怒られたっていうのに最低だよね最低!!」
「うっせえし痛え!ふざけんなよクソ!」
「‥あ、あと、青峰君がね、すっごい桜ちゃんのことずーっと気にしてたから。私も部活中の様子少し見てたんだけど‥‥大丈夫かなって」
「気にするか!つか家に上げろ、足痛え!」
「まあ私に落ち度はないと思うんだ」
「大アリだよ!!!」

まあとにかく、なんとなく理由も分かったので了承して2人を家の中に招き入れた。汚くなる程生活は乱れていないのでさらりと居間に通すと、さっちゃんは当家自慢のふかふかソファの上へ。そうして青峰は足をぴょんぴょんさせながら私の腕の中のアオに視線を向けている。‥なんだこいつ犬好きなのかな。そう思った瞬間だった。青峰の顔が見たことないくらいに破顔したのだ。

「!?」
「おっまえ可愛いな。名前なんてーの?」
「ア、アオ‥だけど‥」
「アオ?んだよぺろぺろすんな。うは、」

え、え、え?!キャラ改変しすぎじゃない!!?しかも驚くことに、割と人見知りのアオが青峰の黒い手の甲を舐めたのだ。なにそのだだ漏れる動物好きオーラ。アオも可愛いが青峰も相当‥いや、駄目だ、なんか思ったら駄目な気がする。

「えー!ずるい青峰君!私も触りたい!」
「クソ可愛いな、ダックス?」
「カニンヘンダックス‥っていう種類‥」
「ヤッベーなー」

いやヤバイのはお前だ青峰。そんな顔しないでよ、普段見せない癖に、突然そんな、‥犬見せられたくらいで嬉しそうに笑わないでよ。ドキドキと煩く忙しない心臓に、私はよろよろとソファに埋もれた。そうか‥これがギャップ萌えというやつか‥?

最近青峰の色んな顔をよく見るようになった。バスケをサボっている理由もなんとなくだけど分かってきた。知れば知るほど青峰を知りたくなってるし、そう思うとこれはもしかして、私‥なんて、頭を振った。

「ボール?遊びてえの?」

バスケットボールに手を伸ばしたアオに、ゆるゆると緩んだ顔を見せつける青峰。

‥‥駄目だ。これはもう、自覚しないなんて無理。我儘で最低で俺様な青峰大輝のことを好きだと脳が叫んでいる。信じられない。本当、‥なんでうちに来ちゃったんだよ、馬鹿。しかもずーっと気にしてたってなんだよ。少しでも期待してる私も馬鹿じゃん。‥ああ、自分が馬鹿なのは知ってたわ。

2017.06.03

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