「ハァ‥、‥きっつ‥」
「オッス未藤。今日も元気に300m走ってるかー?お疲れお疲れー」
「見れば分かりますよねっ‥?!もう既に9本目入ってますよ!!」
「んだよまだ元気かよ」

元気な訳あるか!!生徒会だか何かで遅れてきた癖にヘラヘラしてるなんてどういう了見だ!!!キャプテンの癖に!!‥‥と、顔の表情だけで伝わるだろうか、この男に。周りで謎のハートを飛ばしまくってる人もいれば、私に刺すような視線を向けている人もいる。まあこれは私の感覚的な話しだ。気にしなければ問題はない。

「おい未藤!!10本目さっさと行け!!相手待ってんだろうが!!」
「は、はい!!」

くそ、キャプテンのせいで怒られちゃったじゃんか!慌ててスタートラインに立って、怠くなった足首を軽く回す。これでラスト、これでラスト。そう思いながら掛け声と同時に駆け出した。ほんと、高校に上がった途端急に練習量が重くなった。今更ながら高校生ナメてた。これが歳を取るってことか、‥なんて、酸素の足りてない頭で考えていると、隣で走っていた筈の同学年の女の子が忽然と姿を消した。

「!?」

何事かと後ろを振り向けば、どうやら疲労が蓄積していた足がこれ以上走ることに耐え切れなかったらしく、ド派手に転んでいる姿が見えた。それを見過ごせる訳もなく慌てて駆け寄れば、先輩からまた檄が飛ぶ。煩いなもう。ってか見過ごせるか普通!!周りも何やってんだっての!!

「おい!!お前は早く走ってこい!!」
「いや無理に決まってるでしょ!‥ってか、そんなこというなら、先輩が助ける素ぶりでも見せたらどうですか?!」
「甘えんな!!ッヒ‥!!?」
「‥おい。未藤の言う通りだろが。さっさと保健室運んでやれ。つーかお前じゃなくても他がやれるだろ。人で無しかお前ら」
「「‥‥」」

だから、そのキャプテンの威厳なんだよ。どうやらたった今彼がいることに気付いたらしい周りは、あれやこれやと転けた女の子の世話を焼き始めたのだ。なんだこれ、どういうこと。最初から助けてあげればいーじゃん。バカなの?

「‥オイコラ。今みたいなのまたあったら学年問わずダッシュ追加させっからな。学年が上だからってつけあがんなよ。いいな!!‥お前もなんかあったら速攻言え。正すところはちゃんと正すから」

‥おお。キャプテンかっこいいな。そしてそれに対して顔を赤らめる女子多数、真っ青にさせている男女多数。そうしてキャプテンが転けた女の子についていくこと5分、小さく舌打ちが聞こえたのだ。キャプテンの方からじゃない。‥主に女子側ギャラリーからだった。

「‥てかさあ、キャプテンはなんで未藤さんばっか‥?この間もそうだったよね」
「別に転けただけだし大丈夫だと思うじゃん」
「それ。なのにアイツも1年なのに口答えとかする?フツーさあ‥」
「‥」

なにこれ。すんごい走り辛いんだけど。嫌な空気に飲まれつつある他の1年生は怯えているし、文句を言わずとも他の2、3年生からの視線が先程よりもさらに痛い。なんなの?別に私間違ったことなにもしてないじゃん。そう思うのに、なんとなく後ろめたくなってきて、振り切るように最後の1本を走り出した。気にしなければいい、気にしなければいい。そう考え直して前へ向き直ると、いつから見ていたのか青峰の姿が遠くにあった。なんでそんな所にいるんだ。部活はどうした。‥でも、青峰のおかげでなんとなく嫌な気分を誤魔化すことができた気がする。

かお しんでんぞ

口を大きく動かして、でも少しだけ眉を潜めている。今の出来事を忘れようとしてるんだから放っておいてほしい。そんな気持ちを込めてべーっと舌を出すと、「テメー!!」と大声が飛んできて笑ってしまった。ほんとあんた馬鹿じゃないの。

2017.05.19

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