「ちょっと待ちなってば青峰!」
「うっせーついてくんな」

ついてくんなだと!!ついてきて欲しそうな顔してた癖に何言ってんだこのばか!ばーか!!‥って、私がただ勝手に感じたことだから文句は口に出さないけど。それよりも一体こいつはどこまで行く気なんだ。iPhoneを確認してみると、休憩終了まで残り30分。その30分を青峰の為に使うとか私良い人すぎない?

「あんた戻んなくていいワケ?皆めちゃくちゃ怒ってたじゃん、さっちゃんもすっごい困ってたし、ちゃんと出なよ部活。出ればとりあえず文句言われないでしょ?」
「あーマジやる気でねえわ〜」
「ちょっと聞いてんの?私かなり真面目な話ししてんだけど」
「‥‥ンだからやる意味ねーんだよ!」
「えっ‥何、逆ギレしてんの‥?」

いつもの如くというか、結局屋上に足を向かわせていた青峰は、私の言葉に相当イラっとしたのか屋上の扉に右手の拳を叩きつけて振り向いた。ぎろりと吊り上がった目にほんの少しだけ怯んでしまう。‥てか、顔怖いんだから睨むの自重してくんないかな‥私一応女子なんだけど。知ってると思うけど私は女子。ガンッ!と音を響かせた年季の入った扉は、地味に鈍い音を立てて持ち直している。

「相手になんねえんだよ、相手も本気でやらねえし、俺も本気になれねえし‥‥何が楽しいんだよ‥‥?どうやって楽しめってんだ‥」
「‥」

私に聞かせる為か、ただの独り言か。‥分からないけれど、青峰はやはり、バスケットボールが好きだったのだ。でも、周りの環境が好きな物を嫌いにさせた。でも、潔く嫌いにもなれなかった。‥多分、それがまた苦しいんだと思った。

「‥ねえ、聞いて青峰」
「あ?」
「だから!女子にそんな怖い顔しない!‥あのさ、確かに帝光のバスケ部は強豪で有名だったけど、青峰は負け無しだったのかもしれないけど。まだ青峰が出会ったことないバスケ馬鹿だってきっといるし、青峰以上に上手いやつだって絶対いる。そうやって部活サボったり試合サボったりしてると、そういう出会いだってなくなっちゃうんだよ」
「いねーよ、そんな奴」
「なんで言い切れるわけ?だって現に帝光で同じチームメイトだった人達は、少なくともあんたと対等に戦える人達だったんでしょ」
「‥‥」
「うわっ!?」

何を思ったか突然私を軽く突き飛ばし、その横を通って屋上から離れていく青峰。いったいなあもう!そんなに怒んなくてよくない!?と、声をかけようとした瞬間だった。くるりと振り向いた青峰の顔は何かを思い出したようにほんの少し緩んでいたのだ。緩んでいたというよりは、怖い笑み、というべきか。‥‥え、なんで。

「‥まあ確かに。アイツ等となら、少しは楽しめるかもしんねーな」
「え?」
「しょーがねえから今日は戻ってやるよ」
「‥!ほんと!?」
「お前‥‥なんでそんな嬉しそうなんだよ?マジ意味わかんね‥」
「え?あ‥わ、‥私も分かんない‥‥?」
「ぶっ‥なんだそれ、バカじゃねーの」

‥青峰が笑った。さっきみたいな怖い笑みなんかじゃなくて、可笑しそうに笑っている方の笑みだ。初めて、見た。いっつもダルそうな顔してるか、眉間に皺寄せてるか。そんな顔しか見たことがなかったからとても新鮮で。そうか、少年みたいに笑うのか。笑えばいいのに、もっと笑ってくれたらいいのに。

「‥‥頑張れ」

そしてつられるように、私も笑っていた。

2017.04.28

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