「ちょっと1年片付け遅い!!」

ステップハードルを集めていると、3年の先輩から怒号が飛んだ。遅いったって、ついさっきまで全員でのミーティングしてたんだからしょうがないでしょうが。そもそも皆で片付けした方が早く終わるんじゃないだろうか。どうして日本人ってこう、学年が上の人は片付けしなくていいなんて暗黙の了解があるのかな。なにその変な年功序列。マジで嫌い。

集めたステップハードルを外の倉庫に片付けていると、背後で物音がした。おばけとか信じてないけどそういうのはちょっと苦手で、思わず背中が震える。‥‥なーんて色々考えていたら、背中に鈍い痛みが走った。

「っは!?ちょ、いった‥!」
「未藤さーんこれも片付けてねー」

背中にガン!と思い切り叩きつけられたのは、他の1年が集めていたはずのステップハードル。なんで私に押し付けるんだ!ぎっと顔を睨もうと振り返ると、‥この間の、キャプテンと対決した後に出会った女子生徒の1人。くすくす笑いながらさっさとその場を去っていく。おい知っているか。そういうのイジメっていうんですよ、陰湿な。

「あのー、なんでそんな目の敵みたいにするんですか?キャプテンが好きだからですか?」
「‥は?」
「仲良いつもりはないですけど、あれがそういう風に見えたんですかね?てかそんなことする前に自分からガツガツいけばいいじゃないですか。別に勝手にしてもらって結構なんで」
「ちょっと。‥説教でもしてるつもり?」
「説教っていうか助言ですよね」

ステップハードルを全部直して立ち上がると、イライラを隠しきれていない先輩の横を通って倉庫を出る。というか、イライラしてるのは私も同じなんだけど。残念ながら私は先輩に億劫になる女ではない。それどころか、先輩だとしても自分のスタイルは変えないし変わらない。言いたいことは基本的に言う。‥まあ、それが喧嘩の要因になったりする訳だけど。

「ムッカツク!!」

大声と、先輩が何かを蹴った音がここまで響いてきて驚いた。こっわ。物に当たるのやめてほしい。てか、こんなつまんないことで怒るなんて馬鹿じゃないの。ちらりと後ろを振り向いて、肩を小さく上下させている先輩の姿を視界に入れる。‥いいや、気付かなかったフリしよ。

「なんや、自分この間の」
「あ」

久しぶりの聞きなれない関西弁に思わず足が止まる。私の目の前を通り過ぎようとした男、‥男子バスケ部のキャプテンだ。名前、‥‥ああ、覚えてない‥。

「なんや見とったけどむっちゃキレられてたやん。いじめられとるんか?自分強そうやけど」
「強そう?!いやまあ気にはしませんけど」
「そら青峰を手懐けるくらいやからな〜、よほど心臓に毛が生えたような」
「失礼です!!」

わはは、なんてケタケタ笑っている関西弁にむっとして足を踏みつける。さも痛くなさそうに"アイタタタ折れたやん〜"ってわざとらしすぎて腹が立った。てかこの人こんな所で何してんの?

「そういえば青峰、部活来てますか?」
「来る訳ないやろ。たまに気が向いたら顔出すんやけどなあ‥桃井でも中々捕まらんし‥」
「それ部活動生としてどうなんですか‥」
「いやまあ、試合で勝ってくれればそれでええねん。‥あ、せや、自分連れて来てくれたらええやん。青峰も言うこと聞くんちゃう?」
「私陸上部ですそんな暇ない!!」
「いや〜、持つべきものは可愛い後輩やな〜」

ニヤニヤ笑う男子バスケキャプテン先輩は、冗談だか冗談じゃないんだかの独り言を吐きながらその場から去っていく。最後に頭ぽんぽんってされたんだけど、なんですか丁度良い位置に私の頭があったとでも言いたいのか?余計腹立つな!!

‥てか、試合で勝ってくれればそれで良いって。なんか寂しい言い方しますね。

2017.03.18

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