ほんとに遠慮ってものを知らないのかこいつは。目の前でばくばくティラミスダブルチョコレートアイスデラックスを食べている青峰のせいで、私の財布が泣いている。アイス奢れって、私はそんなつもりなかったし100歩譲ってコンビニアイスのつもりだったんだけど。なんで無理矢理ファミレスまで連れてこられてこんな600円もするアイスを青峰に奢らなければいけない。‥半分は私のせい。うん分かってるけどね。選択肢はたくさんあったでしょ!!

「なんだよ桜、欲しいからって見んな」
「欲しいんじゃありませんー!」
「つかファミレス来て水だけとか最低だぞ」
「高い物頼んどいてよく言うよ!!」

あ、こいつスルーしやがった。むかつく。てかなんで2人でファミレスとか、青峰とデートしてるみたいになってんの。ほんとおかしい。水のなくなったコップに入っている氷をガリガリ噛みながら、ティラミスダブルチョコレートアイスデラックスを眺める。このデザート作った人に殺意沸いた。

「‥ていうか、ここまで来といて言うのは違うと思うんだけどさあ、やっぱさっちゃん困ってるんじゃないの?」
「あァ?いーんだよ別に。練習なんかしたら周りと差が開く一方だろ」
「なに言ってんの。周りと差が開くように練習するんでしょ?優劣なんてそんなもんじゃん」
「そんなんでお前、おもしれーの?」
「はい?」
「差が開いて相手が戦意喪失しちまったらなんも面白くねーだろって言ってんだよ」

戦意喪失。‥そんな目に遭ったことはないなあ。そもそも負けず嫌いな人ばっかりいるのが大会だと思ってるんだけど。

「生憎私の周りには、今までそういう人いなかったからなあ‥‥ねえもしかして青峰それで病んでる訳?」
「もういい今の忘れろ」

えっ。ちょっとそれ酷くないですか。容器に残ったチョコレートを掬い上げて最後の一口を食べ終えた青峰は、私の飲んでいた水まで平らげた。いや自分の飲めよと言いかけたが、コップの中身はいつの間にかなくなっている。いつ飲んだのか。そして横暴だ。

「"俺の欲しいモン"ってさ」
「あ?」
「競える相手ってこと?」
「‥‥うぜー帰る」
「ちょ、ちょっと!!」

奢って貰って、一口も分けるとかなくて、さっさと食べ終わったらありがとうとかご馳走様とかなく「帰る」って何!しかも男なら「帰り道送る」くらい言いなさいよ!!立ち上がった背中は確かに広くて大きいけど、なんだか少し悲しそうだ。帝光時代に一体何があったのかもっと知りたい。あんだけ男子バスケ部はちやほやされてたのに不服なんて。

「‥にやってんだ、遅ぇ」
「えっ」

先に出た青峰に溜息を吐いて、どうせもう帰ってるだろうからとお手洗いに行ってからお店を出た。今日はもやし肉巻きだな‥金のないやつにはもやしがベスト食材。ティラミスダブルチョコレートデラックスとか夢のまた夢なんだよ。ぶつぶつ呟いてたら右側で低い声がした。帰ったとばかり思っていたのになんでいる。‥うぜーって言ってたじゃんか、この間だって置いて帰ったじゃんか。

「な、なんでいるの?」
「‥方向一緒なら送る」
「ええ、ああ‥あの、こっちだけど‥」
「同じ。さっさと行くぞ」

気でもおかしくなったのかと言いたかったけど、そう言うと今度こそ置いていかれると思ったのでやめた。怠そうに歩き始めた青峰の1歩後ろを歩く。何考えてるかさっぱりわかんないけど、多分、青峰はやっぱりバスケがすごく好きだったんじゃないかと思う。サボっているとは言え、結局バスケを切り離すことができなかったから今だってバスケ部なんだ。

‥昔の青峰は、どんな顔をしてバスケをしていたのかな。

2017.03.03

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