「おっ‥」
「ちょっと!折角パスしたんだからシュート決めなさいよ!外したらぶん殴るからね!?」
「俺が外すかバカ!」

良いタイミングで、そしてボールの縫い目の角度までまさにぴったりすぎて驚いた声を出したのが冒頭の俺。運動神経に妙な自信を持ってんなクソ女、なんて思っていたら中々にやる奴だった。決めた本数も俺と変わらない。‥とは言え俺が本気を出してんのかって言われるとそれは頷けねえ。こんな授業ごときで、パンツ以外に本気なんか出す馬鹿がいるのかよ。そんな奴見てみてえわ。

「くっそ‥!!絶対取る!!」

いたわ。目の前に。無駄に女子にキャーキャー言われてっけど、さしてバスケが上手い訳ではない、‥なんだっけか、工藤?って奴が俺の前に立ちはだかってる。ちょろちょろ動く鼠みてえ。つーかパンツの方がバスケ上手いんだけど、その自信満々な感じはなんなんだよ逆にこっちが恥ずかしいわ。

「青峰君バスケ上手いな‥!でも負けねえ!」
「‥お前自分のこと過大評価しすぎじゃね?」
「あ?」
「お前超絶クソすぎて相手にもなんねえ」

その言葉に工藤の額がぴきっと音を立てた気がしたが、そんなことを俺が気にする訳がない。一瞬だけ視線のフェイクを入れ、隙をついてボールをゴールに向かってぶん投げると、唖然とした顔でボールの軌道の先へと即座に振り向いた工藤の顔に笑った。絶望顔ヤベエ、傑作すぎかよ。もちろんボールはゴールに吸い込まれて、それと同時にホイッスルが鳴った。

「すっ‥‥すご‥!!なんで今の入ったの!?青峰君すごーい!!」
「あ、青峰君ってあんなにカッコいいんだ‥どうしようヤバイ‥」
「っ‥!」

うーわ、工藤のすげえ悔しそうな顔マジウケるんだけど。つか本当に勝てると思ってた訳?ないわコイツバカじゃねーの?鼻で笑ってコートから出ようとした直前、誰かに思い切り肩を叩かれた。

「青峰ッ!!ナイスシュート!!」
「いってーなテメーは」

振り向けば、キラキラとした目でばしばしと何度も肩を叩くパンツがいた。勝ったことに対してどんだけ嬉しかったんだよコイツ。そんなに嬉しそうな顔をする奴になんてここ数ヶ月は会ったことねえわ。

「103対5とか、うちのチーム最強すぎでしょ!てかあのシュートどうやってやったの!?ただ投げただけにしか見えなかったけど!」
「いやただ投げただけだろ」
「うっそでしょ!んー、めっちゃ悔しいけど本当にバスケ上手いんだ!ごめんなめてた!」
「テメーのその素直すぎる口を縫い付けてえ」

うるせえ、うぜえ、黙れ。そう言いながら、パンツのキラキラする目がどうにもむず痒い。そんな凄いことしてたつもりだってねえ、むしろやる気なんてなかったくらいだ。バスケ上手いなんて言われ慣れてるし、キャーキャー言われてもピンとこねえ。

「でも、凄すぎて逆に負けたくないなー!!」

悔しそうなのに、嬉しそうな顔して、言ってることはチンプンカンプン。でも、分かんねえけど、‥なんかこういう奴は嫌いになれねえタイプかもしれない。

「桜が俺に勝つことなんざねーよ」
「‥んな、そんなの分かんないでしょーが!!このバカ峰!!」













「桜が俺に勝つことなんざねーよ」

「‥図らずも名前呼びだった別に嫌じゃなかったしいいとは言ったのも私だけども‥」
「なんだよ、今日は随分調子良いな」
「うっ、キャプ、キャプテン。お疲れ様です」
「噛みすぎ。スポドリ飲まねえの?」
「えっ、ああ、水分補給無しでも今日は充分いけそうなんで」

部活の後半、渡されかけたスポドリをやんわりと断ると、キャプテンはそのまま自分の口につけて飲み始めた。そういえば確かに調子良いかもしれない。何故だ。水分補給無しでいけるかもとか私にしては珍しい。水分は補給しない方が体が軽いから助かる。ぼんやりそんなことを考えていると、飲み終えたキャプテンが私に顔を向けた。

「ラスト俺と100M1本勝負しねえ?」
「へ?」
「俺、負けず嫌いなんだわ」

あと、キャプテンの威厳の維持的な?そう一言付け足してキャプテンはニッと笑った。いや、キャプテンの威厳はそういう所だけが全てではないような気もするけど。

「キャプテンが1年に勝負仕掛けて大丈夫ですか?これでも私、周りの目とか凄く気になるんですけど」
「マジ?じゃあ全員帰ってからでいいけど」
「‥‥‥」

キャプテン、私が断る術を無くしにかかっている。逃げられそうにないなと溜息を吐くと、その条件ならと私は首を縦に振った。

2016.12.22

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