「聞いた?今日の体育男女合同バスケだって」
「うっそまじ?面倒くさそー」
「男子と一緒とか汗臭そうだよね」

体育館の端にある、授業の為に併設された更衣室で着替えていると、後ろ側からクラスメイトの話し声が聞こえた。へえ、男女合同バスケかあ。てか、面倒くさそーなんて言いながらビューラーでまつ毛を整えているのは何故だ。

「さっちゃんバスケ得意?」
「私は見る専だからなあ‥別に秀でて不得意でもないけど、普通だと思う。桜ちゃんは得意そうだよね。バスケに限らずだけど」
「ふふ、頭の悪さを補っても余りある運動神経の良さだからね!」
「‥フォローした方がいい?」

困ったように笑ったさっちゃんに頭を傾げていらないよと答える。だって頭良くても嬉しくないもん。‥って、言い聞かせてるだけの所はあるけど。体操着に腕を通し終えて、先に着替え終わっていたさっちゃんの元へと急ぐ。さっきまで面倒だとぼやいていたクラスメイトは、テンション上げめでさっさと更衣室から去っていた。あんなこと言っといて男女合同がそんなに嬉しいのか。解せぬ。まあ私も、

「青峰を倒せる時がきて嬉しいけどね!」
「桜ちゃん行くよー!」

両手でガッツポーズをキメていると、さっちゃんが私を呼ぶ声で我に返る。やっば、更衣室もう誰もいないじゃん。慌てて更衣室から出ると、突然の黄色い悲鳴。なんだなんだと悲鳴の中心を見てみれば、クラスでイケメンと持て囃されている工藤悠(くどうゆう)君が、ボールをダムダムとついて走り回っていた。

「うわあ‥オレオレ感凄いねえ‥」
「工藤君、小学校でバスケクラブ入ってたらしいよ。中学はサッカーだったみたいだけど」
「小がっ‥‥え、さっちゃんそんな情報どこで仕入れたの?工藤君のファン?」
「情報収集得意なんだ」

良い笑顔で答えてくれたさっちゃんに、なんだか妙な納得。そういや最初に会った時も私のこと知ってたっけ。

「あ!もー大ちゃん、体育館でまで来て何ぐうたらしてるの!」
「うっせーな。何しようが俺の勝手だろ」
「ここは寝る所じゃないでしょ!」

目敏い。さっちゃんは体育館の端でごろごろしていた青峰を見つけると、頬っぺたを膨らませてずかずかと歩いていった。ってか、なんて目で工藤君を見ているんだ。「お前超絶ヘタクソかよ」って物凄く、物凄くバカにしている。そんなアンタはどんだけバスケが上手いというのか。

「授業始めるぞーー!!!」

無駄に暑苦しい体育教師の大声が体育館に響き渡る。のろのろと整列し出すクラスメイトの前にホワイトボードを持ってきて、適当にチームを分け出した。どの生徒よりもやる気だ。‥いや、工藤君も同じくらいやる気だ。

「さっちゃんと同じチームがいいなー」
「私も桜ちゃんと同じチームがいいな」













「勝負出来ないじゃん!」
「阿保か。勝負になんねーって前も言ったろ」

少しだけパスとかドリブルとかでアップをとって、意気揚々とした先生が笛を吹いた。簡単なルールで試合をする為に分けられたチームは、6人1組。公式戦とは違うけど、6人で割れば丁度良く分かれるらしい。そんな中私はさっちゃんとは同じチームになれず、青峰と同じチームになってしまったのだ。何が嬉しいかって、何も嬉しい訳がない。

「神様なんていない‥」
「いやお前運いいだろ」
「なんで!」
「俺がいるチームが負けるとか天と地がひっくり返ってもあり得ねーし」
「は」
「あ"ーーーー面倒くせーけど手ェ抜き過ぎて負けんのも面倒くせーしなーー‥‥しゃーねえからそこそこ適当にやるわ‥」
「ほんとその自信はなんなの?言っとくけど点取りで勝負するんだからね!!」

コキコキと首を鳴らしながら、相手のチーム目の前にしてふわああと欠伸をかます青峰。貴様ふざけた試合したらぶん殴るからな‥。

「ねえちょっと‥なんで未藤さん同じチームの青峰君にあんな怖い顔してるの‥?」
「さあ‥??」

2016.10.22

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