「どうだー?高校生活はー」

愛犬のアオを俊君の自転車の籠に入れて、私は俊君の後ろに跨り、ぎゅうぎゅうとお腹に腕を回してここぞとばかりに締め上げる。にしては全然苦しそうじゃない。くそー、鍛えてんな。そんな私の攻撃を無視しながら、俊君はギコギコと約3駅分をいとも簡単に進む。男子だなあ。なんて考えていたら、間延びした声が耳に届いた。

「えー?」
「だからー高校ー。ちゃんと遅刻しないで行けてるのかって聞いてんだよー」
「心配しすぎ!もー、ちゃんとやってるよ。部活はまあ風当たり強めだけど」
「お前負けず嫌いだからなー。先輩に突っかかりすぎて怒らせんなよー」
「喧嘩は慣れてるもん!」
「すんなよっつってんの」
「アン!」

呆れたように零した言葉は、私を心配してくれている証拠だろう。中学の頃もよく先輩と言い合いをしていたし、よく揉めていた自覚もある。でもそれは、お互いを高めあっていただけだと思っているし、部活という枷がなくなれば割と普通に接していた。それに後輩には割と慕われていたような気がする。

「出来がいい後輩ってのを持つと、先輩も焦るもんなんだからなー」
「それでもー!!自信があるっていうことはー!!いけないことなのかー!!」
「桜煩い!恥ずかしいだろ!」
「アン!!」
「それより俊君はー?」

小学2年生からバスケをやっていた俊君は、高校でもバスケをやっている。去年は結構いい所まで進んだらしいけど、決勝リーグで大敗したと言っていた。個人競技ではない分、やはりそこは難しいのかなと思ったり、思わなかったり。私は多分集団競技みたいなの向いてないから、そこは素直に凄いと思う。だって、1人が強くたって勝てないだろうから。

「俺かー?そうだなー‥今年はなんか、去年より面白くなりそうなんだよなー‥」
「何その答え!ヘン!」
「桜の言う通り変なんだよな、確かに」
「分かった、1年に凄い子入ってきたんだ」
「すごいっつーか、‥まあ1人凄くて、1人変だな。ああ、桜と同じ帝光出身だぞ。黒子テツヤって知ってるか?」

黒子テツヤ?聞いたことの名前につい首を傾げる。‥いや、うちのクラスにはいなかったな。

「知らなーい」
「アン!!」
「まあ、驚く程影薄かったからなー‥。人ってあんなに薄くなれるんだなって衝撃だったよ」
「なにそれ。その人妖怪なんじゃないの?」
「人だよ。はっ‥妖怪に用かい‥キタコレ!」
「俊君振り落としていい?」
「漕いでるの俺だけど!?」

ダジャレのクオリティがザ・オッサンになってきている。寒い。「ちょっとこれに今の書いてくれ!」と片手でネタ帳を渡しにかかる俊君の手を叩く。なにやらそうとしているんだ。てかそのネタ帳何冊目なの。いい加減やめなよ。彼女できないよ?昔ここまで言ったことはあるが彼は頑固だった。

「あ、カレーの匂いがしてきた!」
「もうすぐ着くぞー」
「アン!!」
「アオもまるおに会いたいかー、そうかー」
「アン!!」
「アレッ、首振った怖っ」
「飯が先って言いたいんじゃない?さっきから吠えてるの多分それだよー」

俊君はわしわしとアオの頭を撫でて、自転車を漕ぐ。ダジャレな所は置いといて、俊君といるのは本当に落ち着く。実際お父さんと一緒にいる時間よりも俊君といる時間の方が長いし、当然のことなのかもしれない。走ることが好きで没頭できて、兄弟みたいに接することのできる人達がいる。幼少期は酷く寂しかったけど、私は無駄に捻くれることはなかった。

「着いたぞー」
「着いたよアオ!行こ!」
「アン!アン!!」

‥そういえば青峰の欲しいモンってやつ、聞きそびれた。奴だって、相当変だよなあ‥影は薄くないけど。

2016.10.02

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