「あーお腹減った!さっちゃん購買行く?」
「行く!ゼリー食べたい!…って、私先に監督の所行かなきゃいけないから、桜ちゃん先に購買行ってていいよ」
「監督‥?あ、だったら買ってくるから教室で待ってて。お金は後でちょうだい」
「ほんとー?ありがと!」

お昼休み。逆方向へ消えてったさっちゃんを見届けて、私も購買に向けて歩き出した。スポーツテスト頑張りすぎてさっきからお腹が小さく鳴っている。…ていうかほんと悔しい!自信あっただけに!!そして当のガングロは昼休み始まってすぐにどこかへと消えた。っていうか休み時間、ほとんど教室にはいない。どこに行ってるんだか。別にどうでもいいけどさ。それよりお昼何食べようかな…

「あいたっ」

考えていた思考を一旦停止させると、食という欲望が脳内を占めていく。いつもなら、というか中学の頃だったら、とても仲のよかった友達が手作りのお菓子くれたのになあ。まあそんなこと考えたって仕方ない。高校一緒じゃないんだから。…って、目の前に集中していなかったのが運の尽きだった。階段を降りてすぐの所で、どん、と視界が真っ白になったと思ったら、次に見えたのは見覚えのあるネクタイ。っていうか制服。どうやら真正面からぶつかってしまったらしい。

「…っと、スマンの」
「あ、すみませ、私が前見てなかったんで…」
「ワシも人探ししとって前方不注意やったわ。おあいこやな」

聞き慣れない関西弁。あれ?ここ東京だよね?そして顔を上げると、これまた……なんとも言えない胡散臭そーな糸目が。いやさすがに口には出せないけど。1年生……ではなさそうだ。そしてその人は、私の両肩を掴んでそっと押し返すと、私の目と制服を観察するように眺めている。

「自分、1年?」
「え?はあ、そうですけど」
「青峰大輝っちゅー奴とクラス一緒だったりせえへんか?」
「青峰………って、あのガングロの…?」
「ガ‥なんや随分スゴイ呼び名やな、自分青峰と同中なん?」
「らしいです。高校入って知りましたけど…」
「わはっ…!帝光におったんは変な奴ばっかやなー、ホンマ飽きひんわ」

なんなんだ一体。ていうか誰だ。お腹も空いてるし、さっちゃんから頼まれたゼリーも買ってかなきゃなんないのに、購買目の前にして道を塞がれるとは。そもそもガングロがどうしたというのか。用があるなら早く済ませて欲しい。

「青峰探しとるんやけど、お宅のクラスにおらへんかったんや。どこ行ったか知らんか?」
「さあ?ガングロ…青峰はいっつも休み時間教室にいませんから」
「さよか。…はあ…桃井も骨が折れるのお…」
「え、さっちゃんとも知り合いですか?」
「さっちゃん?…ああ、桃井のことか。そりゃ桃井はウチの部のマネージャーや。知り合いどころの話じゃないやろ」
「マネージャー?なんのですか?」
「…自分、メンドクサイって言われへんか?」
「急になんですか!」
「ワシは今吉翔一。あとは桃井にでも聞いてみるとええでー」
「んなん…!!」

なんだ!!!そう言おうとしたら、今吉翔一はそのまま私の横を通り過ぎて階段を昇って行ってしまった。心無しか少し笑っていた気がする。…し、あの人、ガングロ探してたんじゃなかったのか。

「ガングロが板についてしまった気がする…」

今更、とは思うが。まあスポーツテストで敗北したからちゃんと青峰って呼んでやろう。今吉翔一のことはあとでさっちゃんに聞いてみることにして、とりあえず昼ご飯だ!













「お昼ご飯にお握りと味噌汁‥桜ちゃん渋い」
「そう?日本人はこれでしょ」

梅と明太子のおにぎりに、インスタント味噌スープ。またの名を味噌汁。大の日本食好きの私が、購買のおにぎりと味噌汁を見逃す筈が無い。教室に戻ってきたさっちゃんが、私の机の上を見て笑った。確かに高校生のお昼時の机に、おにぎり3つと味噌汁が置いてあるのは中々想像しにくいだろう。事実置いてあるんだけどさ。さっちゃんと言えば、私の買ってきたゼリーを頬張っている。

「そういえば、さっき今吉翔一って人が青峰のこと探しに来てたよ」
「今吉さんが?」
「さっちゃんってなんのマネージャー?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「うん」
「私、バスケ部のマネージャーなんだ」
「そうなんだ。マネージャーとか大変でしょ?しかもバスケってうち男子だけだし、あの糸目の今吉翔一と青峰だし…」
「桜ちゃん、今吉さん一応バスケ部主将だからね…?3年生だからね?」

‥え!主将!?あの人!?

「嘘!?今吉翔一がキャプテンとかめっちゃ怖いじゃん…さっちゃん、何かあったら私も手を貸すからなんでも言ってよ…!」
「大丈夫だよ〜、今吉さん優しいから」

優しそう…に、見えなくもないけども…。それかさっちゃんの前では優しいのかもしれない。さっちゃんから桐皇バスケ部の話を色々聞きながら、明太子おにぎりの最後の一口を口に入れようとした瞬間、横からぬっ…と黒いものが現れた。と、思ったら。

「…ひゃっ‥?ああ!青峰!?おにぎり!」

ぱくりと私の指まで食べられて、むんずと手首を掴まれたと思ったら、ご丁寧に親指までぺろりと舐められてしまったのである。目の前に座っていたさっちゃんと私が硬直した。

2016.08.04

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