「さっちゃん私決めた」
「え?何が?」
「ガングロにスポーツテストで勝つ!」

とある時刻の体育館で、メラメラと私の闘志は燃えた。高校生活最初のスポーツテスト。くあ、と大口あけて欠伸をしているガングロにビシリと指を差す。体操着から見え隠れする腕の筋肉や立派な脹脛を見て、コイツはやはりスポーツマンなのだと思わざるを得ない。スポーツマンというよりは、恐らくバスケマンなんだろうけど。

「ええ?急にどうしたの?っていうか青峰君ダントツ成績いいよ、スポーツテストは‥」
「つーかなんで巻き込む気満々だよオマエ」
「なんか勝てるものがほしいの。そしたらそのムカつくドヤ顔なくなるでしょ!」
「大丈夫だよ〜、頭はきっと桜ちゃんのストレート勝ちだから」
「さつきテメエ」

さらりと笑顔で言いのけたさっちゃんに私は目を丸くした。‥私より馬鹿なのか。と。そもそも私は帝光時代、赤点ギリギリ、もしくはもう少しで赤点を免れたのに!のどっちか程度の成績だった。仲の良い友達に必死になって教えられて、なんとか赤点ギリギリだった大会前の期末試験とかほんと懐かしい。だって思うんだけどさ、因数分解とか空間図形とか生きて行く上で必要!?単純な足し算引き算掛け算割り算!ほんとこれに尽きる!‥‥‥以前そう言ったら友達に「そもそも考える力が大事なんだってば」と可哀想な物を見る目で諭されたけど。ともかく、私より馬鹿な人は存在するのか、という所で驚くしかない。悪い意味での自惚れである。

「‥‥‥桜ちゃん、もしかして中学の時の成績あんまりよくなかった?」
「自慢じゃないけどよくなかった。得意科目は体育くらい!」
「あはは‥その割に自信満々に言うんだね‥」
「というわけでガングロ!勝負だから!総合してトップだった方が勝ちだから!」
「勝手にやれよ‥放っといても俺が勝つわ‥」
「ガングロ。舐めてたら痛い目見るよほんと。本気舐めんな!!」
「そこそこボインの女がそんな男勝りな言葉遣いすんなよな。萎える」
「貴様気にしていることを!!!さっちゃんよりないんだからね!!」
「2人共どこ見てんのよ!」

爆弾発言を残してフラフラと整列し出したガングロの背中にガンをつけた。陸上やってんのにそこそこ発育のよかった私の胸は何故かD、そして最近また若干大きくなった気がする。もちろんさっちゃんには劣るけども、走る競技を好むこっちからしたらそんなにほしくないものなのだ。顔を赤くして怒っているさっちゃんは私に軽蔑の視線を向けている。可愛いなあ。

「桜ちゃんも青峰君に敵対心燃やしすぎだよ!ああいうのは放っといていいんだから」
「駄目だよ。ああいうのはギャフンと言わせないと!‥それにさっちゃんも、あんなやる気のないようなガングロの姿見たくないんじゃないの?‥って私は思ったんだけど」
「!」
「私とさっちゃんってまだそんな仲良くなったわけじゃないけどさ、これからちゃんと友達になれそうな子があんな顔してたら気になっちゃうじゃん」
「桜、ちゃん‥」

ぶっちゃけ好き嫌いも激しいから、小学校時代から友達と思える人もそんなにいなかった。その分好きになったらなったで割と尽くしたいタイプだし、ファーストコンタクトの感ってのは強ち外れないのだ、私の場合。目を丸くしたさっちゃんが、少しだけ嬉しそうに頬を緩めた瞬間に私もニッと笑った。ま、些細なきっかけ担当くらいなら私にだってできるでしょ。

そんな気持ちでスポーツテストに臨んだ初戦、いきなり握力測定だった。‥‥‥‥さすがに勝てるわけないし、むしろそこは負けていたい。













「口程にもねえな‥で、何奢ってくれんだ?」
「そんな約束してない‥ムカつく‥」

あんだけ大口叩いておいてさすがにこれはないと私も思う。てかこいつ有り得ないでしょ。どんな身体能力してんの‥。

握力は負けて当然。これは捨てる。そもそも私の握力が平均以下だったし。これは無理。うん。無理。そしてシャトルラン、反復横とび、立ち幅跳び、上体起こし、加えて長座体前屈まで負けた。私の記録男子平均以上あるのに。バケモンかガングロ。そして一番ムカつくのは50m走の記録だ。

「私さ‥高校の目標誰にも抜かれないことなんだよね‥あんた5.8っておかしくない‥?タイムウォッチ壊れてたんじゃないの‥?」
「パンツも6.1とか異常だろ。前さつきが言ってた記録超えてんじゃねえか。ま、俺には勝てねーが」
「パンツやめろ!!って言ったよね!?」
「そっちこそガングロって呼んでんじゃねーか。おんなじよーなモンだろ阿保か」
「じゃあ何!?なんて呼ぶの!?青峰!?青峰がいいの!?言ってみろ!!」
「おー敬意を込めてそう呼べパンツちゃん」
「そっちこそ敬意を込めて未藤か桜って呼べ!!パンツはやめろ!!」
「へーへー。気が向いたらな」
「お前ら喧嘩するなら外でやれよー」

あ。先生もクラスメイトも、いやさっちゃんまでクスクスと笑っている。私と、ガン‥青峰を見て。この光景が今後我がクラスの名物になるとは、きっと誰もが思っていなかった。‥‥はずだ、多分。

2016.07.21

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