「桜ちゃんおはよ!」
「さっちゃん、おは」
「んだよまたお前かよ…」

にこやかに紡ぐはずだった「おはよう」の言葉は、さっちゃんの隣にいたガングロによって飲み込んでしまった。何故、お前が、さっちゃんと一緒に登校しているんだ。さっちゃん、人選ミスだよ。っていうかガングロ、面倒くさそうに溜息吐いてるけどね、溜息吐きたいのはこっちだから。

「さっちゃん…なんでガングロ…この人と一緒に登校してるの…」
「青峰君いっつも遅刻してくるからね、高校生活の最初くらいは頑張って連れてこうと思って!あ、青峰君とはただの"腐れ縁"だから変な勘ぐりしないでよ!」

ぷんすこしてるさっちゃんは、ガングロに向けて指をしっかり指しながら"腐れ縁"を強調する。なるほど、幼馴染か。そう思ったらしっくりきた。見るからに美女と野獣だもんね…

「あー…さつきが叩き起こすから寝覚め悪くてやんなるぜ…」
「青峰君が起きないから悪いんでしょ!」
「そーだそーだ」
「頼んでねェ。お前も同意すんな」

怠そうに鞄を机にドサッと置いて、何をしに行くかと思えば可愛く睨みつけるさっちゃんを無視して教室を出て行く。…顔に生気がない。世の中なんにも楽しい事ねーな、みたいな。そんなガングロを目で追うのを止めて、さっちゃんに話しかけようと口を開いた。否、開きかけた。

「…青峰君」

声がでなかったのは、さっちゃんの顔が苦しそうだったから。痛々しかったから。腐れ縁とか言って中々の訳アリっぽいな〜と考えることしかできない。なんだかなあ…そうぼんやりとしながら次に目に入った物は、布製のボールバッグだった。













「やたーーーー!!!!入った!!!」
「あの、未藤さん、もうすぐホームルーム始まりますよ…!?」
「えっ、嘘…もう早く言ってよ桜井君」
「エッ、ス、スミマセン!」
「や、そんなに全力で謝らなくても」

布製のボールバッグに入っていた物はバスケットボールだった。しかもその持ち主は、いかにも気弱っぽい桜井良君という同じクラスの男の子で、しかも彼、さっちゃんから話を少し聞いてみればバスケの特待生だそうな(さっちゃんの情報網怖過ぎ)。そんな気弱な彼にちょっとおねだりしてみれば、簡単にボールを借りる事が出来たので、とりあえず体育館に無理矢理連れてきて色々教えてもらっていた所である。そう、彼はやはり見た目通りチョロかった。

「未藤さんは女子バス希望ですか…?」
「え?や、違う違う。クラスメイトにバスケに自信満々なガングロがいてさあ。でもなーんか自信満々な癖にバスケの話した時全然楽しくなさそうな顔してるからバスケって楽しくないのかと思って。普通に楽しいじゃん。ゴール入ると特に」
「自信満々なガングロって青峰サンですか?」

おお、よく知ってたな。やっぱ目立つのかな。

「‥って、桜井君バスケ部だし知ってるか」
「まだちゃんと話したことないですけど…」
「そうなの?」
「ええっ、スミマセン‥‥で、でも彼はキセキの世代のエースだし、僕らの年代でバスケしてる人だったら知らない人いないと思いますよ」
「そんなにすごいんだ」
「凄い…というか、天才ですよ、彼は。僕、去年全中の試合見てたんですけど……すごく怖かったです」
「…怖い?」
「強過ぎて」

そう言いながら桜井君の放ったボールは迷い無く、瞬く間にリングへと吸い込まれていった。

2016.06.30

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