「え?ゲームですか?」

見学期間最後の部活に来てみたら、三奈木先輩にまた声をかけられた。今度は何かと思えば、1年生と2年生でゲームをしたいらしい。どうやら今日見学に来ていたうちの4人が経験者で、まあつまりは私とトラを合わせて6人。ゲームできるじゃん?だそうな。

「…っても、ねえ。ポジションとか大丈夫なんですか?今日初めて会う人達ですよ?」
「それはそっちでなんとかしていいわよ!」
「雑!!」

笑顔で言い切った先輩に、私は思わず本音が出た。トラもゲーム…なんて言い淀みながらちらりと経験者らしい1年生に視線を向けている。そりゃそんな反応にもなる。何度も言うが初対面だ。

「綾瀬先生来たらゲーム始めるからね!」

全てを丸投げだ。すたこらさっさと私達から離れて2年生を集め出した先輩はなんだかうきうきしていた気がする。…一体何があったというのか。とはいえ、決定事項になったことにより経験者で声をかけられたらしい4人が、異なる反応をしながら近付いてきた。言わずもがな、今日初めて見学にきたらしいこの4人は、制服でのゲームだ。可哀想に。

「…えーっと……初めまして、だけど、よろしくお願いします…兎佐と言います…」
「虎侑です。こっちの宇佐がリベロやってて、私がセッターやってました」
「うん、知ってる」
「「うえ」」

そうコクンと頷く髪の毛が黒から茶色のグラデーションになっている女の子が、細々と、しかししっかりと呟いた。何この子怖い。ていうか怒ってる顔してるけど何故。そしてその子が名前を名乗る前にオレンジ色の髪をしたショートカットの女の子が大きく手を挙げた。

「稲田喜美加です!えっと…ミミミドルブロッカーでした!身長低いけど!」
「佐屋富美。アタッカー。レフト、ライトどっちでも。中学はライトポジションだったよ」
「仁村弓です。私もアタッカーかなあ…結構色んなポジションうろうろしてたけどねえ」

上からオレンジ、グレー、銀髪のメッシュである。なんとまあカラフルなことで。最初の稲田さんがめちゃくちゃ吃ったのが笑えたが、グラデーションの彼女の顔が怖くて笑いそうになった顔を引き締めた。

「鷹島鈴。主にレフト。……貴女達2人とも帝光中の"獣人"でしょ。去年の全中の準決勝………忘れたとは言わせないわよ」
「「!」」

うわお、成る程。去年の準決勝と言えば…帝光のストレート勝ち、そして点差も3セット全部20点以上を差をつけた竜並中学との試合だ。…確か。だからこんなに敵意を向けられていたのか、私とトラは…合点がいったよ……ちらりとトラに目配せしてみれば、案の定何かを思い出したような顔をして頭を掻いていた。これから同じチームでプレイするってのに、こんな確執があって大丈夫なのかな。三奈木先輩、親指立てて「ファイト!」とかしないでください。あの人分かっててやったなコンチクショウ。












「雨止まないわねー」
「ロード削った分練習時間余るな……どーする?カントク」

雨が降る予報ではなかったはずなのに、やはり天気予報は当てにはならないらしい。監督と日向先輩が話し込むのを耳に入れながら体育館に入ると、半コートを使って女子バレー部がゲームをしていた。どうやら1年生と先輩でのゲームらしく、兎佐さんのいるチームの大半が制服を着ている。…スライディングとかして、何かをやらかさないか少し心配だ。

「あれ、兎佐じゃん。へえ、アイツバレーやってんのか」
「兎佐さんその手の界隈では有名ですからね」
「ッだからお前は!!!!!!!!」

凄い驚きっぷりだ。と、冷静に務める僕の隣で火神君は大きくずっこけていた。別に驚かそうと思っているわけじゃないけど、この光景にも慣れたものだ。中学の頃からそうだったし、バスケ部に入って…赤司君に出会って、この影の薄さを武器にしたのだ。…そう物思いにふけっている所に目に入ったのは、噂には聞いたことがある、"獣人"の連携だった。

「な…っに今の…?はや‥」
「今絶対レシーブミスだったよね‥?なんであれが上がるの‥?」

もそもそとベンチから声が聞こえた。恐らくバレー部の先輩だろう、その表情は固まっていると同時に口元は笑っていた。理由はその目線の先だ。

「……、ふ」

僕も思わず目を見開いて、そしてついつい笑ってしまった。

「…楽しそうですね、兎佐さん」

あまりにも彼女が、無邪気な顔をしてボールを追いかけているものだから。

2016.07.14

prev | list | next