「世の中目を丸くすることが多いよね」
「‥あんた何を急に悟ってんの‥」

お昼休みを使って中庭に来ていた私達は、ごきゅごきゅとお茶を飲んでいる親友に向かってそう嘆いた。朝の話しが本当だとすると、黒子君は噂のキセキの世代だとかなんとか‥運動ができるという片鱗すらない彼が。全くどうなってるんだ。しかもあの後火神君はご飯食べたと思ったら速攻どっか行っちゃうし。黒子君もいつの間にか消えてるし。まあ、私が黒子君を知ってるか知らないかという不審だったであろう点はスルーされてたからいいけど。

「そういえばさ、私2年生でかっこいい人見つけちゃって!」
「どうせ眼鏡でしょ」
「なんで分かったのあんたやっぱ悟ってる!」
「何年親友やってると思ってんの‥」

目をキラキラさせたトラは、恐らく思い浮かべているのだろう眼鏡の男子生徒にほう、と幸せの溜息を吐いている。だがしかし、トラは眼鏡男子好きではあるが、残念ながら眼鏡男子との相性はこの上なく悪い。本人は分かっていない。分かっているのは今までそれを見てきた私と、一部の友達だけだ。眼鏡男子好きって分かってるから敢えて助言はしない。

「短髪でね、ちょっとクールっぽい感じなんだけど、ちょっとバカっぽいの」
「最後の発言で株落としてるよ」
「バカっぽいのってふと見せられるとたまらないんだよ。ダメだよウサギ分かってない!」
「バカっぽくても実際どうしようもないバカだったらしょうがないんじゃ‥」
「あれでスポーツとかやってたりしたらもう最高だよ〜‥!」

だめだ。人の話し聞いてないわ。人より2倍以上妄想が酷いトラは、普段はそれこそ真面目でツッコミ担当的な部分があるんだけど、もうこうなるとただの妄想癖を持った女子だ。私に止めることはできない。美人で、中学でも結構人気あったのに、そこだけ本当勿体ないと心底思う。黒子君がキセキの世代ということを話そうとしたがもうやめておこう。トラは、完全にオンリーワンの世界に入っていた。












「あ」

部活に行く途中で、影のうっすい彼を見つけた。黒子テツヤ君。私よく見つけたなと感心すらしてしまった。手に持つのはバスケットボールだったから、成る程本当にバスケ部だったのかと驚くしかない。驚いていると黒子君としっかり目が合った。

「兎佐さん。これから部活ですか?」
「え、あー、うん。黒子君も?」
「はい」

そう言うと、なんとなく。なんとなーーーくちょっと笑顔になってた‥気がする。ああ、バスケ好きなんだなあと、そんな風に思って、へえ、なんて目が丸くなった。真剣に何かに打ち込む人は好きだ。

「‥黒子君ってさ、本当にキセキの世代っていうのの1人なの?幻のシックスマンとか火神君言ってたけど」
「合ってます。‥けど、違います。そもそもキセキの世代の中に僕が入ってること自体がおかしいです。キセキの世代の5人とは比べられません。月とスッポン以上の差があります」
「そうなの?」
「僕は点を取れる訳じゃないですし」
「謙遜‥とか?」
「いえ、事実です。でも‥そうですね」
「?」
「僕は僕でできることをしてる。バスケは1人でやるスポーツじゃありませんから」
「へ、え‥」

なんか、意外だった。し、黒子君にもそんな強い瞳ができるんだって思い知った。失礼ながら。彼もやはりスポーツマンなんだと、自分の背筋がぞくりと震えたのが分かる。‥なんか、かっこいい。かも。

「兎佐さんはバレー部ですよね?」
「うん」
「ポジション的には‥リベロとかセッターとか、そんな感じだと思いますよ」

そう言った黒子君は、確かにふわりと笑っていた。ヤバイ、黒子君‥‥その若干緩んだ頬っぺた、めっちゃ可愛い。

2016.06.25

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