「でもまさかなあ〜、桜ちゃんも同じ学校だったとは思わなかったよ。あ、でも桐皇って陸上昔から有名だったっけ」
「そうそう。それでスポーツ推薦出してやるからって顧問がさー。ほんとは県外の強豪校行こうかと思ってたんだけど、折角都内に古豪もあるんだし遅刻の多いお前は俺の目の届く範囲にいろ!って。父親か。ほんとは京都の洛山に行きたかったのに」
「へえー洛山に…」

ガングロのいなくなった席に何時の間にか腰を降ろした美少女は、ふーんやらなんやらとぶつぶつ言いながら机に肩肘をついた。というか思ったけど、私この人の名前知らないや。同じ学校だったみたいだけど。まあでも、帝光はマンモス校だったし、10人や20人名前の知らない同級生がいても当たり前なんだよね。

「私の友達もね、皆違う高校行っちゃって。だから青峰君以外話せる人いなかったんだ!というわけで桜ちゃんが高校友達第一号〜!よろしくね!」
「え、あ、よろしく、というか私まだ貴女の名前知らないんだけど…」
「あ、そっか。私桃井さつきっていうの」
「桃井さんね」
「さつきでいいよ〜」
「さっちゃん」
「それでもオッケーかな」

そう言って笑ったさっちゃんは、やはり可愛かった。そしてどうやらガングロのパンツ発言は当の昔に忘れ去られているらしい。なんて良い人。













そんなこんなで放課後を迎え、目の前で眠りこけているガングロを無視してさっちゃんにも別れを告げた。そして快晴の運動場にて初部活である。スポーツ推薦で入ったからには新1年生の肩書きも無意味だった。いや練習する気しかなかったからいいんだけど。だがしかし、目の前にはいかにもというような、プライドの強そうな3年生がずらりと並び、私の隣では私に自己紹介をと促すキャプテンが黒い笑みを浮かべていた。え、何なの…桐皇の陸上部ってガラ悪いの…?

「…ええと、未藤桜です。帝光中学出身で、目標は三年間誰にも抜かれないこと。以上です」
「ケッ」
「はい村辺お前200M5本追加なー」
「はァ!?キャプテンマジ勘弁なんすけど!!別になんも言ってねーじゃねーすか!!大体今日入学式で!!50Mダッシュ10本やったら終わりって!!」
「知るか。いつも言ってんだろうが、お前は下ができると当たりが強くなるから気をつけろってな。つーか村辺だけじゃねーぞ。他の奴等も肝に命じとけ」

その言葉に続くように引き締まった返事が運動場に響いた。成る程。このキャプテンの威厳は中々に凄いらしい。村辺という先輩は、顔を歪めると舌打ちをして、「くっそー」なんて言いながら腕組んでいる。そして簡単な挨拶が終わった所ですぐに練習になった。…男子6割、女子4割って所か。適当にばらけて柔軟をし出す周りに合わせて、私も柔軟に入る。…にしても、好意的な目なのか敵意的な目なのか分かりかねるが、どうにも周りの視線が痛い。陸上やってる人からしたら、私の名前なんてそこそこ有名だろうし、分かるっちゃ分かるけど…

「まあそう力むなよ」
「うひ、…って、キャプテン」

人間観察しながら溜息を吐いていた所に、突然後ろから背中を押された。先程私の隣で黒い笑顔を見せていたキャプテンだった。確か…水嶋秀(みずしま しゅう)だったか。黒髪で、天然パーマなのかパーマをかけたのか分からないが、毛先が少しちゅるちゅるしている。さっきの黒い笑顔さえ見なければきゅんとする顔面だったのに残念です…

「うちの部員達は皆プライドが強くてな」
「ああ、見れば分かります…」
「未藤みたいなのは特に当たりが強くなるかもしれない。お前は記録保持者だし、うちの陸上部にしては珍しくスポーツ推薦枠で得ている人材だ。…何かあればまず俺に相談しろよ」
「えッ…そ、そうなんですか…?」
「水嶋キャプテーン!準備できましたよー!」

甲高い声につられてキャプテンは顔を上げる。…っていうか古豪の癖に何故推薦枠で取ってなかったんだ。謎すぎる。そんな私の心の声をキャプテンが聞ける訳も無く、早足でその場から離れていった。…うわあ、キャプテンが離れたらさっきより視線が痛く刺さるのをモロに感じる。

「…ねえ、今未藤さん、キャプテンに背中押してもらってたよね…」
「…何アレ。1年の癖に」

あ、これ分かっちゃったかもしれない。これあれだ。推薦枠だけが理由じゃないぞ。主に女子が。入学式初日から目をつけられるとか正直あり得ない。…し、少女漫画でも中々ないわ…。

「キャプテン…自覚無しキツい…」

2016.06.22

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