「‥中々点にならんねえ」

試合が始まってもうすぐ2分が経過しようとしていた時、隣で小さく驚いたように八雲さんは呟いた。別に、たった数分しか経ってないんだから普通なんじゃないのだろうか。そんなに速攻で点が決まるものなのだろうか。‥‥そういえばこの間の練習試合、始まってすぐ点入れてたもんなあ。あれが普通なのかな。ていうか、‥‥始めに誠凛の大きな人がゴールを決めようとした瞬間に阻止しようと飛んできた緑間君、凄かった‥。

「今緑間君かっこいいって考えとったやろ」
「!?ちが、違うから!」

否定をしてみたところで、面白そうにニヤニヤする八雲さんが目に映るだけだった。かっこいいじゃなくて、凄かったって思っただけ。‥いや、かっこいいとも少しは思ったけど‥。

秀徳の4番の人が投げたボールが高尾君へ。と同時に、すぐ緑間君へ渡ったと思ったら、緑間君の手からボールはすぐに離れてしまった。以前見た時と同じように大きく弧を描いたボールは、綺麗にリングの中へ。ほら、やっぱり凄い。入ることを分かっていたかのように彼がゴールへ背を向けた、‥‥‥瞬間だった。

「っあぶな‥!」

誠凛の人がボールを手にすると、いきなり反対側のゴールまでボールを吹っ飛ばしてきたのだ。しかも、緑間君の顔の真横を通過。危険にも程がある!と、つい大きい声が出て両手で口を塞ぐ。‥あれ?てかあんな人試合いたっけ?

「な‥なんなん今の‥あんな、コートの端から端までバスケットボールって飛ばせるもんなん‥?って、あ!点数入れられとるやん!」

吹っ飛ばしたボールは誠凛チームの大きな人の手に渡り、速攻でゴールが決まった。ドキャ!という独特の音が響いて大きな歓声があがる。しかも今のダンクシュートとかいうやつではないだろうか。この試合本当に皆高校生なんだよね?この間の練習試合とは全く内容が違いすぎるような。

「ちょっと亜樹表情豊かすぎて笑うんやけど」
「だ、だってなんか今日の試合凄くない‥?」
「まあAブロックの決勝やし相手も強いやろ」
「あ‥そうかこれ決勝か‥」
「‥嘘やろあんた緑間君しか興味ないん?」
「だから違うってば!」

わっかりやす。そう言って八雲さんはまた笑う。そうじゃないのに。

‥本当に?

視線をコートに戻して、自分の中で変な問いかけが聞こえたような気がした。だって、必ずと言っていい程彼に目が向くのに。電話だってもらって実は嬉しい癖に。なんで?そんなの、モデルしてるから。芸能界にいるから。‥そんなの建前だ。恋愛関係ないじゃん。好きなら好きだって認めればいいじゃん。‥いや、そう言われたら確かにそうなんだけど。

「緑間君って難しそうやけどかっこいいよね」
「‥‥なに、急に」
「‥って周りに人気って知っとった?」
「新学期にちょっと聞いたことあるけど」
「知らんよ〜捕られても。まあ?芸能界は色々怖いし?難しいとこもあるけん一概にオススメはせんけど?でも後悔すると思うな〜?青春時代全部仕事に捧げるとか勿体無いやん?次いつ彼以上に好みの人が現れるか分からんし??」

さっきからまあニヤニヤニヤニヤとなんだ。その顔でそんなこと言わないでほしい。‥別に好みとかじゃないし。変人で、占い好きで、‥‥まあ、確かにかっこいい。否定はしない。

「‥‥」
「協力ならしてあげてもいいんやけどなあ」
「なんで上から‥」
「なあ亜樹、‥緑間君のこと好きやろ」

また笑っているのかと思ったら、意外にも八雲さんは真剣な顔をしていて。否定をしようとしていたけど、なんだか毒気を抜かれて私は数10秒たっぷり使ってゆっくり首を縦に振っていた。ほら、やっぱり好きだったんじゃん。認めてしまうと自分の視界がクリアになって、緑間君が光って見えるのだから恐ろしい。じわじわと頬が熱くなっていくのが分かったけど、なんとか平常心を保つのが精一杯だ。

‥というか、八雲さんは何故出逢った時からそんなに私を気にするのだろうか。

2017.08.25

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