「いや‥亜樹は何着てもモデルやなあ‥怖い‥モデル怖い‥」

今日は決勝戦だという緑間君の言葉。そして、八雲さんからの連絡。そうして学校が終わってから少し早めに待ち合わせした彼女と、只今私は某アパレルショップにいる。っていうか眼鏡と帽子って凄く在り来たりな考えじゃないだろうか。ちらちらとこちらを見ている周りの視線が気になるけど、綺麗めクリーンに纏めた服装にあからさまなガチ野球ファンのベースボールキャップなんてそりゃ目立つだろう。髪の毛は1つにまとめて帽子の中。‥つまり物凄く変な格好だ。

「‥八雲さんこんな格好いや。恥ずかしい‥」
「んーでも、バレるやん?」
「なんか、‥もうちょっとマシな帽子がいい。この格好にキャップはない」
「へえ。‥緑間君には可愛く見られていたい、とか言う感じ?」
「そんなんじゃな‥!」
「いいやん、少しは自覚しいよ。あんた最近ずっと緑間君のこと気にしてたやろ。試合も行きたかったのも緑間君おるからやろ?」
「っ‥!」

そんなことない!‥そう言いたかったけど、他に適当な言い訳が思いつかなくて口を閉じた。確かに。‥緑間君に触れられたあの日からだろうか、ちょっとだけ、‥変な自覚はあるのだ。ちょっとだけ。でもそれを悟られたくはないし、知られたくもない。好きとかじゃなくて、本当に。‥本当に。

「あ、てか時間ヤバ!早く決めんと!」

その声に、慌てて目をつけていた白いハットを手に取った。緩々とした細いストライプのワイドパンツに合わせて。買うならこれだと決めていた。元々持っていた伊達メガネを掛け直すと、会計をしてお店を出る。なんだろう、心臓がドキドキしていて煩い。きっと八雲さんが余計なことを言ったせいだ。













「え‥‥今日、誠凛と試合なの‥?」
「そうみたいやね。‥知り合いでもおると?」
「まあ‥いるよ」

試合会場で貼ってあった、今日の対戦校の名前を見て私は少しだけ食いついた。誠凛と言えば、友達が通っている高校だった筈だ。もしかして来ていたりするのだろうかと考えたけど、会ったら会ったで物凄く驚かれるから見かけたら避けようと決めた。そもそもあの頃は外に出るのは嫌いだったから尚更。帽子を深く被って会場に入ると、負けた高校の部員だろうか、泣いてる姿が目に入った。

「あ、高尾くーん!」

そうして気を抜いていると、高尾君を見つけたらしい八雲さんの声が響く。ちょっと大声やめて!そう言おうとしたら、その後ろから見えた緑間君にどきりと心臓が鳴る。‥ちょっと、なんなのこれ。

「おー八雲サンに亜樹ちゃんチーッス!」
「やっと来たか」
「人、多い、ね‥」
「決勝だからな。‥なんで顔を隠すのだよ」
「だって‥バレたら、面倒、だから‥」

なんか、上手く喋れない。別にユニフォームなんて初めて見た訳じゃじゃないのになんでだろう。これは絶対八雲さんのせいだ。絶対そうだ。でも、なんだか緑間君の声が不機嫌になっていてそっと、ちょっとだけ見上げた。‥意外と睫毛長いんだから、なんて思うくらいしか余裕がなくて。少しだけ汗ばんでいるのがかっこいいと思ってしまっている私がいる。‥なんで、なんで。

「?‥ああ、モデルだったな、そういえば。不味いのか?顔を見られると」
「‥普段あまり外に出ないし、色々あるの。変な噂立てられたりとかしたら‥迷惑かけるし」
「‥俺は別に迷惑等ではないがな」
「はっ?」
「今日は途中で帰るなよ」
「おーい2人の空気出すのやめてくんね?」

突然聞こえてきた高尾君の声に慌てて視線を下に向ける。駄目だ、このままここにいたら心臓がどうにかなってしまう気がする‥そうして八雲さんの手首を掴むと、徐に2階席へと足を向けた。

「ちょっ‥亜樹‥?」
「‥頑張ってね、高尾君。‥‥緑間君」

残念すぎる程の捨て台詞だ。その言葉に八雲さんが笑っていたけど気にするものか。後ろで高尾君のニヤニヤした顔と緑間君の真顔が並んでいたことは、考えればすぐ分かる。試合に集中したいのは、私も同じだ。そう、同じ。

2017.05.27

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