「三奈木、昨日の2人一体ナニモン?」
「綾瀬先生。おはようございます」

早朝のこと。個人練習の最中、バレー部顧問の綾瀬に声をかけられたバレー部のキャプテン・三奈木光(みなきひかる)は、サーブを打ちかけていた手を止めた。まだ誰も練習には来ておらず、三奈木しかいない体育館には虚しくボールがテンテンと落ちる音だけが響く。ーー昨日、ちょっと様子見程度にと見学に来ていた1年生2人に、軽い気持ちで参加させた対人バレー。相手はお互い2つ上の、自分と同じ同級生。‥にも関わらず、実力は恐らく、現3年生よりも上だった。いや、そんな生温い言い方では足りないだろうが、そう思い直したのは、せめてもの同級生への敬意だと残酷ながらに思う。

「俺も途中からしか見てなかったが‥なんというか、対人バレーを見て度肝を抜かれたのは昨日が初めてで」
「‥」

対人とは言うが、スパイクを打つことはなかった2人。だが、スパイクを打たなかったことにも理由があった。

「お前も見てたんなら気付いただろ、あの1年2人が上げたボールは、打ちたくなくてもつい"打っちまう"。あまりにもジャストポジションに、しかもあいつらのベストな高さにボールが飛んでくるから。そして、そのスパイクをあの1年2人はまた確実にジャストポジションに上げてくる。その流れが初めから終わりまでミスなくエンドレスに続くんだ。‥つい最近まで中学生だった奴等だぞ?信じられん‥どこの中学出身なんだ?」
「‥確かあの2人は、帝光中学出身ですよ」
「帝光‥‥‥‥ぁ。ああーーーー‥!!成程思い出した‥!!!!!だからか!!」
「?」












「うわあ‥」

誰。そう言いたかった口は、そう声に出すことが叶わなかった。それほどまでの威圧がある。つかどんな髪の毛してんのトラ助けて‥あと朝から食い過ぎ。‥‥‥って、昨日の大男じゃん!!!1年生だったのか‥!?信じられん‥

「?なんだよ」
「イエ‥」

私の斜め前に座る赤と黒の髪の毛の大男は、机の上に惣菜パンを広げていた。1、2、3、4‥‥‥8個。食費大丈夫か君。家族は嘸かし泣いているだろう。そして私は朝ご飯を抜いている。理由は簡単、時間がなかった。お腹すいた。けどその量を見ると逆に気持ち悪い。

「‥それ、全部食べる‥‥んですか?」
「あー?まあな。朝からバスケしてきたから腹減ってんだ」
「バスケ?1人でですか?」
「おう」
「友達いないんですね」
「うっせーし!つーかお前タメだろ、敬語やめろよ。えーと‥」
「兎佐希望。ウサギでいいです‥いいよ」
「火神大我。よろしく」

火神大我と名乗ったその大男は、そう言うと手に持っていた超ロングウインナーホットドッグにかぶりついた。地味に20%offのシールが貼ってあるのが見えたので、どうやら自分の食費がすごくかかることに関しては分かっているらしい。

「バスケ部?」
「まあ入部希望ではあるけどよ。どうだかな、日本のバスケなんてどこも一緒だろーし」
「なにその世界中を旅してバスケを見てきましたみたいな発言」
「‥すぐ辞めるかもしんねーけど」
「ええ‥」
「おはようございます」
「「うわ!!!」」

びっくう!!と背中を震わせた私と火神君の前にいつの間にか立っていたのは、黒子テツヤ君だった。元同じクラス(らしい)の。やっぱり私だけが驚くわけではないらしい。その巨体で火神君も驚いていたからやはり黒子君は相当影が薄いことは明らかで、何故か火神君はイラ立った様子でびしっと黒子君に指差した。

「お前はホントになんなんだよ!」
「黒子テツヤですけど」
「ちっげーーーよ!!そうじゃねえし!!その気配消すのどうかしろ!!」
「普通にしています。中学の頃と何も変わってないですよね?兎佐さん」

私にふらないでほしい!!とは言えるわけもなく、カタコトで「ウン」と答えると驚いたように火神君は目を丸くしていた。っていうかこの二人仲良いの?一番関わりなさそうなタイプ同士なのに‥。世の中不思議がいっぱいだ。

「兎佐も帝光中出身っていうやつなのか」
「唐突な呼び捨てだね」
「コイツが本当にキセキの世代とかいうのの幻のシックスマンっていうのは本当なのか?キセキの世代って有名だったんだろ?どうなんだ」
「知らないし怖‥‥え!?黒子君が!?バスケ部だったの!?」

そう言うと同時に、黒子君と火神君からなんだか痛い視線をもらってしまった。だってバスケ部どころか運動部っぽくもないんだもん。という考えは、心の中に留めておくことにする。

2016.06.07

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