「ちょっと遅い!もーなにやっとんの!?」

早く早く!そう急かされて、八雲さんにメールで放課後に来い、と呼び出された体育館の2階席に向かう。そもそも何故体育館なのか。聞いたけど教えてくれなかった。今日は仕事が少し遅い時間から1つあるだけなので断る理由もなく‥というか、なんか断ると面倒くさそうだったからというのが1番ではあるのだが。

「なんなんですか一体‥」
「男子バスケ部が練習試合するって聞いてさー。緑間君と高尾君も試合出るって言ってたし、亜樹も気になるやろ?」
「いや別に」
「まあまあちょっとは素直に‥」
「ちょ、あの子‥!!」
「ねえ見てあれ、たっちゃんだ!」
「顔ちっちゃ‥!なんでここにいるんだろ?バスケ好きなのかな〜」
「もしかしてフライデー的な?熱愛発覚!?」
「ウッソ、誰だろ!!」

2階席の端に八雲さんと2人で椅子に腰掛けていると、周りのギャラリーからの声。まあそうなるのも無理はない。一応芸能人の枠にいるし、こんな所にいて騒がれない訳はなかった。なかったけど、いきなり憶測が立ちすぎだ。今時女子高生とは怖い。いや、女子高生に限ったことではないかもしれないが。

「‥八雲さん私帰ってもいいですか」
「来て早々!やっぱああいうの気にするん?」
「気にするというか、無い噂立てられるのは好きじゃないですし」
「そりゃ誰でも好きじゃないやろ。ほっとけばいいやん、無い噂なんて構う必要ないし」
「それはそうなんですけど、簡単には、」
「それよりも、気の知れた友達作る方があんたには必要やと思うっちゃけど」

珍しく真面目な声のトーンを出した八雲さんに、思わずぐう、と口籠もった。まるで親のような言い草だし、そもそも私は友達が1人もいないと言った覚えはない。この学校にはいないが、仲が良くて、気の許した友達ならいる。連絡はそんなにとってはいないし、指で数えられる程にしかいないけど。私のモットーは、狭く、深く。だからこそたくさんの友達なんて必要ないと思ってる。

「‥‥八雲さんは、」
「あー!亜樹ちゃんと八雲サン!やっほー!」
「‥何故いる」
「俺が今日のこと八雲サンに教えたからに決まってんじゃん?真ちゃんも気合い入るだろ?」
「誰が来ようが俺は人事を尽くすだけなのだよ」

八雲さんへの問い掛けは、高尾君の声で遮断されてしまった。コートから2階席に声をかけられたら余計に目立つ、という常識をこの人達は知らないのだろうか。他人のフリと無視を決め込んだ所で然程意味は無い。さり気なく八雲さんから距離をとっていると、ばちりと緑間君と目が合った。な、なに。というかなんで。とりあえずなんか言うべきか。

「がっ‥‥‥んばってください‥」
「当たり前だろう」

フン。そう鼻を鳴らしてコートへと戻って行く緑間君に、こめかみが少し歪んだ。その上からなの本当どうにかなんないかな。でも、コートへ戻って行く緑間君の後ろ姿がどうしようもなく頼もしく見えてしまう。1年生なのにどういうことなんだ、先輩もっと頑張ってください。そう考えていると、金髪の先輩に何故か頭を叩かれていた。

「吃りながら"頑張って下さい"ってなんだアレ。可愛すぎかよ緑間マジふざけんな轢くぞ」
「宮地、文句なら1本外してからでいいだろ」
「外す訳がないでしょう。今日の星座占いは蟹座が1位、ラッキーアイテムがバスケットボールなんですから」
「つーかマジその緑間のソレはなんなの?ご利益でもあんの?」
「いやー宮地先輩、蟹座1位の真ちゃん、マジ超ヤベーっスから」

2017.01.26

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