「"誰をだ?"って、いつもの真ちゃんなら"早く行け"じゃないの〜?亜樹ちゃんが可愛いすぎて頭ショートかな?やー真ちゃんも男だったんだなー安心」
「頭がショートしているのはお前なのだよ高尾。さっさと支度をしろ、部室閉めるぞ」
「ヘイヘーイ、フッフフーン」

咄嗟に出た言葉に対して、無駄に反応してくる高尾が煩わしいのが今日に限ったことではないが、なんというかカンに触る。自分の課題を全て終わらせて、高尾がその課題を全て写し終わる前にノートを閉じた俺は、鍵を手に取って立ち上がった。

「なんだよ、お前等まだいたのか」
「うおっ、宮地先輩こそまだ残ってたんすか」
「その反応はどういうことだ高尾テメエ。つーかはよ帰れよ、明日練習試合だぞ。ふざけた試合したら轢くからな」
「新体制になって初めてなんですから優しくしてくださいよ宮地先輩」
「先輩舐めんなクソ1年」
「ッテテ!!宮地先輩俺の頭潰れる!!」

高尾の頭を片手で掴んでいる、明るい髪色をした宮地清志(先輩)もまだ残っていたらしい。元々部活自体も早く切り上がっていたのだが、1人自主練をしていたということだろうか。成る程嫌いではない。

「つーかさっきすっげー美人いたな、見た?」
「あ、髪長い子ですかね?うちの生徒っすよ」
「ゲ、マジ?!もしかして今年の1年とか?」
「大正解〜」
「益々お前等腹立たしいな」
「だから痛い!」

まるで大型犬のじゃれ合いを見せつけられているようだ。そんな2人を尻目にふと先程の辰巳の姿を思い出した。制服姿しか見たことがないからか、あまりにもイメージと違いすぎる服装に驚いたのは無理もないだろう。いや別に故意にイメージを膨らませていた訳ではない。あんな透けた、破廉恥な、‥格好をしているとは誰も思わない筈だ。

「‥緑間は何固まってんだ」
「ブフッ、プッスーーーうぎゃっ」

その笑い声に不快感を感じて腕を振ると、高尾の顔に部室の鍵がクリーンヒットした。













「学校楽しいんだね〜亜樹ちゃん」
「普通ですけど‥」
「いや、中学3年の夏くらいから楽しくなさそうだったよ。これでも気にしてたんだから!」
「それは、‥別に」
「だから、眉間に皺寄ってたりちょっと笑ってたりすると私も安心だよー」

"S"という人気のロックバンドがBGMに流れる中、車内でリズムにのる小川さんが楽しそうに笑った。学校が楽しい、というよりは‥あの3人がおかしくて対応に困っているだけなのだが。特に緑間君は人間が掴めない。あの時平然と手に触れておいて、なんの反応もないとは。いや反応してほしいとかそんなことではなくて。なんか、‥あるじゃないか。普通。一応こっちはモデルやってるんだし、‥やだ、また黄瀬涼太みたいなこと考えてる。

「そういえばKANYA☆ちゃんどうだった?」
「最悪でした。あの子厄介すぎ‥あの子のマネージャーが困ってましたよ」
「KANYA☆ちゃんイケメンキラーらしくてね、どんな手使っても1度は手に入れたいって性格みたい。今日亜樹ちゃんに絡んでたのも誰か紹介してって魂胆でしょ?」
「ああ‥そんなに有名なんですか‥」
「読モだし、緩い部分あるのはしょうがないかもしれないけど‥特にあの子の場合は。仕事を理由に男を粗探ししてるみたいで私は苦手なんだよねえ」

そんなになのか。今後仕事一緒にならないといいなあなんてぼんやり考えていると、小さく携帯が震えた。八雲さんからのメール。内容は"明日放課後空けとってね!!"にハートのスタンプ。‥‥明日普通に学校だから逃げられないじゃないか。

「ふふ、亜樹ちゃんやっぱり楽しそうだよ」


2016.12.13

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