「小川さん、秀徳高校に寄ってくれませんか」
「え?なんで?忘れ物?」
「知り合いが課題預かってくれて‥」
「へえ‥亜樹ちゃんが友達‥同じクラス?」
「いえ、友達というか‥違うクラスで‥」
「‥ますます珍しい」

先日の遠足で八雲さんとメルアドの交換をしていた私は(ほとんど無理矢理に近かったが)、そんな姿を担任に見られていたのか、私宛ての課題を八雲さんに渡していたらしい。他クラスなのに何故。‥まあ、クラスメイトで仲良くしているような素振りがないからかもしれない。そこは突っ込まないで、"ありがとうございます、撮影終わったら取りに行きます。体育館裏で"とだけ送っておいた。

「その格好だし、課題もらったらすぐ戻っておいでね」
「すみません」

人が近くにいないのを確認してこそこそと敷地内へ入ると、体育館裏目掛けて猛ダッシュする。猛ダッシュとは言ってもそんなに早くないのは自覚しているけど。

「おーい!!亜樹ちゃーん!!なんって刺激的な格好してんのー!?」

そしてそんな中、とても聞き覚えのある嫌な声が聞こえたのだ。思わず足を止めて、ぎょっとして、まず周りを見渡す。

「声が大きいです!」

そして声の先にいた人物1人、いや2人に思わず私も叫んでしまった。そんな私も馬鹿。反射とはまさにこのことである。というかそんな所で何をやっているのか。とりあえずまた高尾君の叫び出しそうな声を抑えるべく、慌てて2人 -- 高尾君と緑間君に近付いた。

「なっ‥なんて格好をしているんだお前は!何を考えている!学校を休んだと思えばッぐ!」

なんて格好と言われましてもこれは私の服ではありません。‥いやしかし、それを説明した所でこの人は分かってくれるのだろうか。

「はい真ちゃーん興奮しなーい。いやー改めてやっぱ亜樹ちゃんモデルなんだなーと思ったわー」
「学校休んだのは仕事だから」
「‥!‥!」
「緑間君に酸素が足りてないみたいだけど‥」
「あっヤベッ、鼻も口も抑えてた」

すまん真ちゃん、なんて然程悪いなんて思ってない顔で笑って告げた高尾君を、今度は緑間君の掌が襲った。その大きな掌で高尾君の頭を掴むと、握り潰す勢いで力を込める。‥痛そうだ。

「あ。亜樹〜、もう着いとったんなら連絡してよ。‥って、あれれ?高尾君と緑間君やん。え、何々、密会?」

そうして数分後、向こう側からまた聞き覚えのある声。本当に、このメンツは何故こうもタイミング良く揃ってくるのか。八雲さんのいつもポニーテールで纏められている髪の毛が、珍しくサイドに3つ編みされている。

「こっそり来たのに大声出されたから‥」
「ああ、まあそんな格好で学校に現れたら‥ねえ?あ、それよりこれ、預かった課題。お礼は〜‥今度一緒に‥‥や、この四人でお昼ご飯食べるってのはどう?」
「‥‥‥‥なんで?」
「最近この4人で遭遇すること多いやん?」
「お前達2人が図書室に群がるからだろう!」
「私は図書委員っちゃけん、図書室におるのは当たり前やろ」
「私だって緑間君達より先に図書室で勉強してたのに、なにその言い草」
「フン」
「真ちゃん返す言葉無えな〜、イテテ!!ヤメテマジ!!」

高尾君の言葉に、緑間君の掌の力がさらに強くなったようだ。

「んじゃ決まりやな。お昼、楽しみ〜」
「‥はあ」

勝手気儘、自由気儘な八雲さんはそれだけ言うと手を振って去って行く。‥なんというか、本当になんで私なんだか。

「何故あんなに八雲に懐かれているんだ?」
「私が聞きたい‥っていけない、戻らなきゃ」
「何、まだ仕事あんの?」
「待たせてるから」
「誰をだ?」
「「えっ」」

高尾君と綺麗に声が合わさった。誰をだ?って‥いや、別に誰でも良くない‥?急に何故そんなことを聞くのか。首を傾げて緑間君と視線を合わせると、緑間君は突然はっとした顔をして、何故かニヤニヤし出した高尾君の首根っこを掴んでその場から逃げるように離れて行った。

2016.10.26

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