今日は新入生達で親睦を深める為の遠足らしい。そもそもこういう日こそ小川さんに仕事を入れてもらうように頼んでいた筈なのに、何故かこういう時だけ「学校行事はしっかり楽しんでおいで!」精神の為、弁当その他もろもろを用意して、不本意ながら遠足に来ている。‥とても広い公園に、何故か、お昼を高尾君に誘われて。それだけならまだしも、緑間君もいるし、おかしなことに別のクラスの八雲さんもいる。どうして。

「八雲さんがここに」
「リカ。もー何回言えばいいん?ね、高野君」
「いやだから高尾ね?っつうか何、辰巳サンと仲良いから入れて〜って言うから入れたんだけど、仲良くないわけ?」
「図書館仲間!ねー亜樹」
「他人です」
「他人って酷いなー、友達は多い方がいいやろ。改めて仲良くなろうとこんな男臭いとこに混じってきたんやからさ。あ、私八雲リカ。よろしく、高尾君と緑間君」
「こんな?酷くね?俺の優しさ無駄じゃん」
「それより何故俺の名前を知っているのだよ」
「知らない方がおかしいと思うっちゃけど‥あんた有名人やん」

眉を寄せて緑間君に指を差しながら、八雲さんはそう言った。有名人なのか、緑間君は。持ってきたお弁当を開いて、お箸でたらこスパゲティを掴む。持ってきたお弁当の中身は、昨日の仕事でもらったケータリングの一部だ。料理は好きだけど、面倒くささには勝てなかった。「男子は女子の手作り弁当見るのが楽しみでもあんのになー」ってなんなんだ高尾和成。女子が皆手作り弁当を持ってくるなんて思わないでほしい所である。

「"キセキの世代の緑間真太郎"なんて、バスケ界においてはディスティニーランドのリッキーマウスくらい有名やんか」
「ぶっは!!何その例え!!」
「オレをリッキーと一緒にするな」
「リッキーと同格って嬉しくないん?バリ可愛いやん、世界の人気者やし」
「‥キセキの世代?って‥」

「たまごっちのキャラじゃなくて!つかみどりまっちってキャラ想像しただけでも全然可愛くないっス!!緑間真太郎!オレと同じキセキの世代の!アンタ実はバカなんスか!?」

そういえば、黄瀬君がなんかそんなこと言っていたような気がする。というか、言ってた。そもそもキセキの世代とは一体なんなのだろうか。あの黄瀬君がギャンギャンワンワン言うのはよくあることだが、まさか八雲さんまで知っているとは。

「ん?‥ちょっ、まさか亜樹知らんの‥?キセキの世代のこと‥」
「?」
「帝光中学校の強豪バスケ部で、特に最強の部員がそう呼ばれてたんよ。その1人がそこの眼鏡の緑間真太郎君」
「うちの中学って男子バスケも強かったんだ」
「男子バスケも?‥‥いや、てかなんなん、アンタも帝光出身!?むしろ今までなんで知らんかったの!?」
「や、あんま学校行ってなかったし‥」
「あ、そうか‥アンタも有名人やったな‥‥いやでもそんなもんなん‥?って、どうしたん?高尾君」
「もう、なんつーか、辰巳サンサイコーっつか、腹痛え‥こんな変人が同中だったってのに、なんで真ちゃんすら知らねーんだ‥!」
「高尾、口は慎め。次は無い」

緑間君の眼鏡の奥が光っている。高尾君、次どころか明日がないかもしれないよ。しかし彼は緑間君がツボなのかずっと笑っていた。 むしろ笑いすぎだし、それよりも私にはずっと気になっていたことがあった。

「あの‥この大きいクマのぬいぐるみは何‥」
「これは今日のラッキーアイテム、クマのぬいぐるみなのだよ」
「‥」
「何をポカンとしている。日々人事を尽くしているオレがラッキーアイテムを欠かさない筈がないだろう」

いや知らないけど。でも私が突っ込みたいのはそういうことじゃなくて、クマのぬいぐるみの異様な可愛さだ。真っ白で、きゅるるんとした大きな目。首に巻いた真っ赤なリボンが余計に可愛さを際立たせている。それに加え、ご丁寧に緑間君と高尾君の間に、まるで「緑間真太郎の隣は私のものなのよ!」とでも言いたそうに並んでいるのである。

「‥‥ふふっ、ほんと、なんで知らなかったんだろうね、私も疑問になってきた」
「‥へーえ。亜樹も笑うんや。クールビューティーなんちゃらかんちゃら言われとるアンタより、私はそっちの亜樹のが好きやなあ」

にこにこ笑いながら緑間君のクマを奪い取った八雲さんが、そう言いながら私に投げた。

「お前!返すのだよ!」
「亜樹から返してもらってくださーい」
「緑間君、私もご利益貰っていい?」
「今日の魚座のラッキーアイテムはクマのぬいぐるみじゃないのだよ!魚座は生魚だ!」
「魚座だけにやろ?」
「ブフフッ‥!!」

んー、なんとなく緑間君が大事に持っているから、ちょっとだけそれにあやかってみようと思っていただけであって、そういう意味じゃないんだけどね。

2016.08.19

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