「う……うすい…」
「黒子テツヤです」

やばい本音漏れてた。そして名前言ってると思われた。…って、"うすい"なんて人知らないよ!私の席の隣の人はどうやら先程の男子生徒だったようで、何事もなく本を読んでいた。黒子テツヤ…変わった名字だなあ。…って、名乗られたらこっちも名乗らないといけない空気になるじゃん…。そう思いながら机に鞄を置くと、黒子君はじっと私の様子を伺っている。そ、そりゃそうだよね名乗らないと失礼だよね…

「えっと、兎佐希望です。どうぞよろしく…」
「はい」
「はい?はい…って、え?」
「兎佐さん、中学2、3年でずっと僕と同じクラスでしたよね?」
「え?」
「え?皆に"ウサギ"って呼ばれてましたよね?」
「え?え…ええええええええ!!!!?」

怖い鳥肌立った!!!!大げさに後ずさったら机にお尻ぶつけた。痛い。っていうか、いた!?これが本当だったら私ただの酷い奴だ。いやでも黒子なんて名字聞いたらすぐ覚えるし…まさか名前まで幸薄…いや影薄いの??はた、と黒子君の顔を見れば、なんでこの人はこんなに吃驚しているんだろう同じクラスだったのに、という困惑した表情で固まっている。イヤイヤ2年もいて「クラス一緒とか初めて知りましたアハハ」なんてまず言えないよ…よし。

「な、なーんだああの黒子君かあ…もう今の今まで忘れてたよ〜同じ高校とかほんと吃驚だね!でもクラスに知り合いいなかったしちょっと心強くなったかなあ〜、よかったよかった」
「………」

やばい疑いの眼差ししかない。高校入学してからこんなピンチに遭遇するなんて夢にも思ってませんでした。アーメン。












「黒子テツヤ?んーーーーーーーーー……覚えてないけど、誰?」
「トラも?じゃああれ嘘かなあ…」
「でも嘘つく理由なくない?理由があるとしたらウサギのこと一目惚れしちゃったーくらいしか思いつかないし」
「エッそんな急展開!?」
「まあでもありえないか」
「真面目な顔で切り捨てないでくれるかな」

放課後、バレー部の見学をしに体育館へ向かった私はトラと合流し、見学そっちのけで例の黒子テツヤ君のことを聞いた。よかった。私だけじゃなかったんだ。逆に安心したけどそれと同時にぞくっとした。じゃあ何故私を知っていたんだ…ドッペルゲンガーなのか…

「それにしてもこっちの女子バレーに比べて隣のコートの男子バスケは上半身裸になって何やってんだか…」
「あーね。あれね。なんだろね……ってトラ!あれあれ!!あの子黒子テツヤ君!!」
「え?どれどれ?赤髪のデカイの?」
「あんなん中学校にいたらバケモンだわ!あの幸薄そうな水色の髪の彼!!」
「あんた暴言ですぎ」
「そこの見学2人組!経験者!?」

ん?あ、私とトラのことだ。

「え、あー、はい!」
「ごめん、よかったらちょっとだけ参加してくれない!?サポーターとシューズあるし、制服でいいから!」

トラが黒子君を探し出す前に、例のポニーテールのキャプテンに声をかけられてしまった。あ〜タイミング悪い!!ちらちらと隣のコートに目線を泳がせながら、いそいそとサポーターとシューズを借りて、バレーコートに足を踏み入れた。半年ぶりの感覚だ。このサポーターの感じも、トラとコートに立つ感じも。

「とりあえずウサギ、黒子君ってのは後だね」
「だね。コートに立ったらやっぱ、全力でバレーボールしたいや」
「同感」

2人1組でアンダーパス、オーバーパス、スパイク、スパイクカットを自由に行ういわゆる対人パスを、恐らく3年生を相手にすることになるだろう。ちょっとスカートのひらひらが気になるけど大したことじゃない。一応スパッツ履いてるし。

「よろしくね、ちょっと軽めでいくから緊張しなくていいよ!」
「いえ、バンバンきてください!」

そんな私の言葉にポニーテールの先輩が目を丸くした瞬間、小さく笑った気がした。

2016.05.26

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