緑間真太郎と言ったか。この眼鏡の、私の龍のキーホルダーを持ったおは朝占い信者の、普通にしていたらイケメンの、っていうか今気付いたけど指のテーピング巻き過ぎでしょっていう…

「ウソ!?」
「嘘?意味が分からないのだよ」
「もうちょっと普通の人を想像してたのに!」
「は?」
「普通からだいぶそれてた…!」
「……」

なんだかよく分からん、という顔をして無言で席についた緑間君(仮)に私は呆然とするしかなかった。…っていうか、この人に私は3年間負けていたのか。語尾に「〜なのだよ」とかついてるし、占い信じまくってるし、なんならめっちゃ無愛想だし!恩には切られたけど!

「あの、緑間君(仮)」
「……なんなのだよ」
「帝光中の緑間君(仮)ですよね…?」
「じゃなかったらオレをどこの緑間と間違えているんだ、お前は」

あーー緑間君(ガチ)になってしまった。そう心の中で呟いてうな垂れた。もうちょっととっつきやすい感じの人だったらまだよかったのに…なんか腑に落ちないのは何故だ。分かった、上からがすぎるし、ちょっと偉そうだからだ。偉そうなのはなんだ、自分が頭が良いと自負しているからなのか。くそう、悔しすぎる。

「しーーーーんちゃん!」

もんもんとしながら頭を抱え込んでいると、拍子抜けしてしまうほどの明るい声が教室に響いた。クラスメイトあるあるの五月蝿い男子だな。いるいる。そしてその声は私の近くまで来ると、斜め前の席で落ち着いた。…斜め前って、緑間君の席じゃ…

「高尾、真ちゃんはやめろと言っているはずだが」
「えー?いいじゃん減るもんじゃなし!オレと真ちゃんの仲っしょ!」
「いつからなのだよ」
「んー、あれだな、こないだの春休み期間初練習で顔を合わせた時から?」
「黙れ」
「ヒドッ」

これは仲良しの会話じゃない。というか黒髪君が一方的だ。やんややんやと騒ぎながら緑間君の首に片腕を回して絞めている、が、緑間君は当然のように振り払った。黒髪君笑い方うるさいなあ。方や堅物(っぽい)、方や軽い(多分)。性格逆すぎでしょ…共通点が皆無だ。そんな私の視線に気付いたのか、黒髪君がくるりと振り向いた。同時に目を大きく見開いて指差すと、もう片方の手で緑間君の肩を思い切り掴んでいた。

「んな!?キミあれじゃん!モデルの、ええと、………辰巳亜樹!真ちゃんも知ってるっしょ!?今をトキメク売れっ子モデルと言えば!」
「モデル?…ああ、だから見たことがあったのか」
「なんだよ、真ちゃん気付いてなかったワケ?」
「見たことはあると言っただろう」
「ハア〜?真ちゃん本人前にしてそれはねえわ〜」
「お前こそ今思い出すのに時間がかかっていたのだよ。自分のことを棚にあげるな」
「テキビシー!」
「…」

まるで懐かない猫と構ってほしい犬だ。そんな2人を見ながら、私は通学途中に買ったコーンポタージュの缶があったことを思い出すと、2人に構わずそれを取り出して蓋をあける。今朝のクラス分けの衝撃によってその存在を忘れていたからか、少し温くなっていた。

2016.06.18

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