帝光中学。
その名を聞けば、誰もが男子バスケットの強豪校だと口を開く。全中三連覇と言えば記憶にも新しい。だが、もちろん部活動がそれだけ、という訳でもないし、男子校というわけでもない。しかし今、バスケ以外の部活動が霞むのもしょうがないのかもしれない。"キセキの世代"。それほどに注目されていた。

そして春。帝光中学の”キセキの世代”達は、各々別々の高校へと進学した。そして同時に、帝光中学に通っていた残りの生徒達も自分が決めた高校へと進学する。これは"運命"だったのかと錯覚するほどに、今まで関わりのなかった人物達が足並みを揃えてくるーーなんて、きっと誰もが思わなかっただろう。












「入部希望者!…帝光中学出身。て、あの男子バスケで有名な所じゃん!へえ〜」
「は〜…帝光は別にバスケだけじゃな「というわけで、今日の練習見学しに行かせていただきますのでよろしくお願いします」ちょっとトラ〜、私まだ喋ってるじゃん…」

誠凛高校の門を通ると、大量の人混みが迎えてくれた。隣の親友が女子バレーボールの勧誘スペースを見つけてくれて駆け寄ると、手渡された用紙に記入した出身校を見て、何度も言われてきた言葉に溜息が出る。ほんとやんなっちゃう。キャプテンだと思われるポニーテールの先輩はA4の紙を他の生徒にも差し出して「今日見学できるからお待ちしております!」なんてこっちの気も知らないでよく言う。

「行く気を損ねるなあ、もう…」
「しょうがないよウサギ、帝光が男子バスケで有名なのは。知ってる人は知ってるであろう"キセキの世代"の年だよ?私興味なかったから顔すら知らないけど」
「帝光めちゃくちゃ人数多いもん。噂知ってても顔知らなくて当たり前だしそもそも私達同じクラスでもなかったでしょ。…多分」
「まあ15クラスもあればそうなるよねー…」

内側にはねたくせっけの髪の毛をいじりながら、恐らくクラスメイトの顔を思い出しているのであろう親友・虎侑陽菜子(こゆき) ーー 通称トラは、先程もらった紙を畳んでポケットへと入れていた。…とりあえず思い出すのもめんどくさくなったのか。

私 ーー 兎佐(うさ)希望のことを、頭文字をそのまま取って"ウサギ"と皆が呼ぶ。帝光中学の女子バレー部で、それなりに頑張っていた。トラと、他のチームメイトと。でもその頑張りすら帝光男子バスケ部の前では話題にもならない。どう頑張ったところで全てオイシイ所はキセキの世代に持っていかれた。

「おかげで学校からの資金も廃部にならない程度にしかもらえなかったしね。ま、それもあってどの部活も均等っぽいここに決めたんだからブースカ言わないの」
「ブースカしてないもん。とりあえず、今日見学行くんでしょ」
「見学しなくても入る予定だけど」
「すっっっっっごい険悪な所だったら嫌だよさすがに。ま、トラがいればいいや」
「同じく」
「あ!クラス分けの張り出し見に行かないとーーってあいたっ」
「…え?ウサギ今誰かにぶつかった?」
「もー人多いんだから誰にぶつかってもおかしくないでしょー…」












「トラと離れちゃった…」

自分の教室前。ばいばーいなんて颯爽と別の教室へ入っていってしまったトラに寂しさを感じる。もうちょっとこう…なんかないの?クラス分け、今までトラと離れたことなかったから高校も運命的にそうだと思い込んでいた私がバカだった。やはり神様はいないのだ…。うな垂れる私の目に映るのは、ガラスの窓とその奥で談笑しているクラスメイトになるであろうお方達。あ‥高校デビューっぽい子いる…仲良くなれそうになれない…

「あの」
「…え……え?…え…!?ごめっぃや、いつからいたんですか!?」
「ずっといました」

ーー嘘でしょ!?全然気配しなかったんだけど…!?怖!!

後ろから肩を叩かれた瞬間に悪寒が走った。それほどの存在感のなさ。水色の髪の毛をした男子生徒、恐らく私のクラスメイトになるお方パート2。さっき見てた高校デビューの子とは違ってまさしくフッツーの男子である。それにしてもあれだ。

「…君幸薄いって言われない?ですか?」
「影が薄いとはよく言われますが幸薄いは初めて言われました」
「あ、そ、そう……。えー‥えっと、このクラスの人?ですか?」
「はい」
「そ、そうなんですねー…」
「…通りたいんですけど、通っていいですか?」
「あ、どうぞどうぞ」
「ありがとうございます」
「……」

まさにポカーン、である。ていうか他の生徒も気付いているか気付いてないのか…っていうか彼自身がするするーっと黒板まで抜けて、自分の席を探し当てて着席した。忍者か何かかと思う程に見向きもされない…最早天才である。存在感のなさの。

「…あほらし。座ろ…」

見てて飽きないけど見てて飽きるわ。黒板まで近付いて自分の名前を探し、席について隣を2度見してしまった。

2016.05.26

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