「ホレ」
「えっ?」
「俺カフェモカがいいから交換。つぶつぶ苺オレがよかったんだろ?」

なんてこと。イケメンかよ知ってた!ていうか日向先輩がつぶつぶ苺オレ持ってるレア!わざわざ私の為に買ってくれるとか心のケア半端ないよ!いよいよ大好きだわ。元々好きでしたけど。

「?ちょ、虎侑さん受け取ってよ、さすがにつぶつぶ苺オレなんかキャラじゃねえから」

右手でプラプラとつぶつぶ苺オレのパッケージを揺らす日向先輩は、少しだけ人目を気にしながら私を呼んだ。熱々のカフェモカをそっと渡すと、代わりに私の手に渡るつぶつぶ苺オレ。いつもの、ピンクと白のパッケージの長方形のやつだ。なのに、そのパッケージが光って見える。これ本当に100円?

「あ、ありがとうございます‥」
「おー。‥‥あー、‥そういや、虎侑さんって黒子と同中なんだよな」

‥?クロコ?首を傾げると、びしりと固まった日向先輩はふと気付いたように苦笑いをした。

「あー‥‥いや、なんでもねえ、なんか察した‥」
「?‥あ、ウサギの言ってた人だ!バスケ部の!そうらしいです!あ!ウサギというのは友達なんですけど!」
「おお‥」
「うちの中学、男子バスケが鬼強でしたし。まあとは言え、私はバレー馬鹿ですからあんま興味なくって」
「そんな感じするわ。監督からさっき雑誌見してもらったけど、虎侑さん結構有名人なんだな」

え!見てくれてたの!テンション上がる!

「有名人とかそんなんじゃないですよ!私なんて目立つ程活躍してるわけじゃなくて、ただ帝光だったからなだけで」
「そんなんで専門家は注目しねーだろ。なんだその謙遜。監督も言ってたしなー。運動能力高いって」
「そんなの見ても分かんないですよー」
「それが監督は分かっちまうんだよなー‥はぁーホント怖え‥」

見て分かるってどんな目だ。苦笑いを零した日向先輩が、恐る恐るとカフェモカに口をつけている。あ、喉仏。男子の喉仏ってすごくセクシーだよねー。素敵です。拍手喝采。身長、どれくらいかな。180くらい?その制服の下に筋肉が隠されてるかと思うと興奮する。はああ‥やはりかっこいいです。眼鏡も。

「"帝光の獣人"とか、周りもすげーネーミングセンスだよな。そういえば、なんで獣人って言われてんの?」

ふと視線を私に寄越した日向先輩が、疑問を1つ口にしたところでつぶつぶ苺オレの中身が少し飛んだ。紙パックの真ん中を持つのはやめなよ、昔から言われていたことなのに、やはり私は学んでいないらしい。純粋に問いかけた日向先輩の顔が少しだけ歪んでいる。多分、私が一瞬でも困った顔をしたからだろう。

「ほら、私って苗字の頭に動物の名前入ってるじゃないですか。試合中、人間よりだいぶ獣じみた反応することもあったみたいだし。だからそう呼ばれるようになったんですよ」
「‥あー、そう言う風に言われるの嫌だった?」
「いえ、なんか最強っぽくて好きです!」

本心である。そんな私の言葉に、日向先輩はほっとしたようだった。













「10本サーブ!終わったらモップかけてー!男子バスケ来てるからー!」

キャプテンの大声で流れていた汗を拭った。今日も今日とて酷いワンマンだった。先輩はワンマンを日頃の鬱憤晴らしにでも使っているんじゃないだろうか。声には出さずとも、同学年で体力の無さが課題であろう稲田喜美加( いなだ きみか )が、凄い形相でそう言いたげに床で伸びていた。完全にサーブレシーブをするウサギの邪魔である。

「喜美加、顔面でサーブ受けても知らないよー!」
「どく‥どきます‥」

死人か。這いつくばったままコートから出ると、そのまままた伸びている。まあいいか。

「トラ、全力だよー、全力じゃないと練習になんないからー」

ぴっきーん。こういう局面で煽られると試されているようでムカついて、ついついボールを持つ手に力が入る。ウサギのやつ‥。

「全く仲良いねえあの2人‥」
「虎侑のサーブもあんだけ取りづらいのに、兎佐もよく受けるもんだよ」
「てか、あれまぐれ当たりじゃないの吃驚したわ」
「ボールを手に当てる位置計算してやってんでしょ。じゃないとネット超えないよ」
「キッ‥‥キャプテンーーー!!!!」

床に伸びていた喜美加が、突然大声を出した。驚いた拍子に、ボールはそのまま私の頭上に落ちて来て、コントみたいな空振りである。あの子あんな声出るの。心臓出るかと思った。

「何!?稲田どうしたの!!?」
「外っ‥‥外に黄瀬涼太が見えますうー!!」

ヤバいこの子墓が必要かもしれない。とりあえず合掌。

2017.02.22

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