「この子‥」

「ん?おお、帝光の虎侑陽菜子ちゃんな。その子は俺の推しの1人だ。可愛いだろう。‥って!黄瀬と同じ中学!!知り合いなのか!?そうなんだな!!先輩に紹介してください!!」
「ちょっ、森山センパイ必死すぎっス!!」

雑誌に広がる、帝光時代のバスケ部とよく似たような白と青のユニフォームを着ているのは、見間違いではないらしいオレを無視した数少ないあの子。嘘だろ、帝光だったワケ‥?しかもこの月刊バレーボールに載ってるってことは、それなりに実力があるということであり、注目選手ということであり。思わず雑誌を拾い上げると、食い入るように彼女のページをめくった。うわ、3ページもある‥!

「‥帝光の獣人‥‥鋭い観察眼で導く勝利‥リベロの兎佐選手との連携でレシーブから攻撃を組み立て‥」
「可愛いよな‥女の子は皆可愛い。けど、特に虎侑さんは‥!!」

リベロってなんだっけ?‥レシーブってのは腕に当てて取るやつだよな、確か。そんで、リベロって‥?首を傾げながら雑誌を読んでいると、隣で大袈裟に大きな声。森山センパイってホント単純っつーかなんっつーか‥。てか静かに読ませて欲しいんスけど‥。

「黄瀬、虎侑さんの連絡先を」
「オレ、帝光時代に顔も見たことないし噂も聞いたことないんスよね。この子」
「‥んぬわああああにいいいい!!?」
「うるせえ森山!!!」

森山センパイの代わりにまた笠松センパイから殴られるかと思ったけど、それはさすがに思い過ごしだったらしい。森山センパイが頭を抑えて呻いている。マジドンマイッス。キレッキレの笠松センパイの逆鱗には触れたくねえ‥。そんなことを考えていると、まさかの笠松センパイの声が続いた。

「‥お前の代、キセキの世代だろ。獣人なんて名前霞むんじゃねーの?」
「霞むってなんスか?」
「帝光中学の部活動、どれも全国に行けるくらいにはレベル高ぇって話しは耳にしたことがある。ただ、お前等キセキの世代の時はそれこそ特別待遇だったし、そこまで注目されてなかったんじゃねえか?男子バスケの注目度が極めて高かったからな。ムカつくくらいには」
「笠松センパイ‥そんなにオレのことを調べて‥」
「テメーのことなんざ調べてねえよ!!」
「可哀想な虎侑さん‥!黄瀬なんかよりずっと輝いてるのに‥!!」
「チームメイトの後輩になんてこと言うんスかあ!!」













結局、24-26と20-25でウサギチームに負けてしまい、ペナルティで運動場10週走らされてしまった。別にこっちのチームだって弱いワケじゃないけど、なんにせよレシーブが繋がらないと得点は取れないし、レフトかライトのオープントスだけでは攻撃パターンが見え見えすぎる。あと、残念ながら皆さんスパイクの威力が低めなんだよなあ‥。帝光時代とは打って変わって‥いや、比べるのはそもそもおかしい。ダメだダメだ。それにしても練習でも試合で負けるの悔しい。他校との試合ではほとんど負けたことないけど‥。

「片付けたらストレッチー!!」
「はい!!」

キャプテンの三奈木先輩の声で我に返って、慌ててボールを拾いに走り回った。やば、考えすぎててサーブ練全然してなかった‥。

「どしたの。全ッ然サーブ打ってなかったけど」
「水上先輩」
「例の眼鏡先輩のことを考えてましたって言うんだったら、三奈木に言いつけるからね」
「なんで日向先輩のこと‥知っているんですか‥!」
「言葉数足りてないよ‥。アンタ部室で人目も憚らず宇佐に眼鏡先輩の魅力力説してるじゃん」
「oh‥」
「なんでネイティヴに発音すんの‥」

聞かれていたか‥私の惚気を‥(ウサギから「惚気って意味おかしいよ」ってオーラが飛んでくるけど気にしない)。ボールを片付け終わると、ストレッチをしながら水上先輩は失笑していた。

「‥さっきは、日向先輩のことを考えていたわけじゃないです」
「?」
「私、このチームで強くなりたいから」
「‥?てか聞きたかったんだけどさ、なんで無名の誠凛に?虎侑や兎佐程の選手だったら、強豪校からスカウトとか来たんじゃないの?」

不思議がる水上先輩に、私は笑顔を返した。強豪とか関係ないですよ。‥とは、先輩には言えないけど。

2016.11.15

prev | list | next