「弓ー!1本ナイッサー!!」

銀髪のメッシュが目を引惹く、約178cmという1年生ながら高身長の女の子 -- 仁村弓(にむらゆみ)に掛け声を一言。最近部活終盤30分前になると、必ずメンバーを入れ替えながらゲームをしている。隣の半コートではバスケ部が走り回っていて、‥ああ、日向先輩素敵です‥。

その瞬間、顔の真横をボールが通り過ぎた。

「わっ‥、す、すみませ〜ん‥」
「仁村1本大切にー!次切り替え切り替えー!」
「仁村ちゃんいっそトラの後頭部にヒットさせてほしかったよー」
「ウサギコラァ!」
「虎侑次余所見したらペナルティだからな」
「す、すみません‥!」

くうっ‥日向先輩罪作りな男!!って、イカンイカン、ウサギに文句言ってる場合じゃないな。顧問の綾瀬先生笑いながら青筋立ててる怖い。ウサギごめんね。パンッ!と両頬を両手で叩くと、ボールに集中する。14-17、いや、弓が今サーブミスしたから14-18か。向こうは反応速いウサギがいるからなあ。さてどうしようかと思っていた所に、相手側からサーブが飛んできた。

「オーライオーライ!返ったよ!」
「虎侑レフト!」
「ライトあげろー!」

レフトにいる2年の堺先輩にあげても、ライトにいる3年の水上先輩にあげても絶対取られる。バックアタックで弓に上げるか。‥いやでもそんなコンビネーションまだ弓とはやったことないわ‥。

「水上先輩」

ライト。少しだけ距離は短めに。そしていつもより少し高めに。ふわりとボールが指に触れて、重みが掌に乗ったところで空中へと押し返した。

「ナイストス虎侑‥っ!?」

いつもの調子でジャンプしようとした堺先輩の足が一瞬止まる。ネットの向こう側では、タイミングを合わせてきていたブロックが飛んでいた。こういう駆け引き大好きでごめんね?なんて、ブロッカーの一人である1年生の鷹島鈴(たかとうすず)にクスリと笑いかけた。全中で敵として戦ったことのある相手である。うわっ、めっちゃ嫌な顔したよこの子。

ブロックは完全に意味を成していない。着地に落ちるブロックの代わりに、今度は堺先輩が踏み切って腕を振り上げた。目の前には誰もいない。よし!いけそう!!

「ナイスキーみな‥って、兎佐ぁぁーー!!!」
「すごーい!ナイスレシーブウサギちゃーん!」
「ったくもー‥」

本当、ウサギを敵に回すの嫌だわ〜‥。ブロックは完全に振り切ったけど、やはりウサギから逃げるのは難しかった。あ〜〜!!悔しい〜〜!!













「ゲェッ!?なんなんスかこの雑誌の山!!」

海常高校、男子バスケット部の更衣室。そこには、誰が持ってきたのか、ベンチの上に大量の雑誌が拡がっていた。

「可愛い女子が写っている雑誌だ。皆の意見を聞きたい」

残念なイケメンと呼び声の高い3年の森山由孝は真面目な顔でそういうと、更衣室に入ってきた黄瀬涼太含む数人の1年生に雑誌を押し付けた。ただの雑誌ではない。スポーツ雑誌である。

「可愛い女子が写っているって‥森山センパイ、これ全部メンズ向けのスポーツマガジンじゃないっスか‥」
「黄瀬。お前は何も分かっていない。最近のスポーツマガジンはレベルが高いんだぞ」
「おいお前らー‥って何やってんだゴラアァ!」
「笠松も見た方がいいぞ。女子に慣れるチャンスだ!」
「うっせーよ森山テメー!!今日フリーで何本外したと思ってんだ!!!シバくぞ!!!」
「そんでなんでオレをシバくんスか!?」

背中を思いっきり蹴られた黄瀬は、そのままベンチに顔から突っ込んで雑誌を散乱させた。酷いとばっちりだ‥そう考えながら、黄瀬はちょうど目の前にあった雑誌に目を止める。胸元に書かれた「TEIKO」という文字にぴたりと動きも止まった。黄瀬か、それともチームメイトか。‥‥それにしては胸元が少し膨らんでいる気がすると首を傾げる。すらりと伸びた足と白いサポーターを見てさらに疑問は深まり、顔を隠していた別の雑誌を手でどけた。

「‥え?」

雑誌に写っていたのは、先日行きつけのカフェで会った、あの超失礼な女の子だった。

2016.10.12

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