「私と日向君が?付き合ってないわよ。なんで?」
「そうですか‥!」

よかった、彼女ではなかった!そう考えると、ついさっきまでつっかえていたものがポロリと取れた。これで安心してグイグイいけるってもんだ。日向先輩はフリーなのだ!

「1年の虎侑陽菜子です。あの、日向先輩のこと好きが好きです!どうぞよろしくお願いします!!」
「え」
「え?‥‥‥俺!!!!!!?!!!」

驚いた顔も心底素敵だなあ。特にその眼鏡が。空いていた日向先輩の右手を両手で掴んで上下に振り回す。おっきい手‥!この手でバスケットボールを操っているんだ!こう、頭を撫で撫でされたい‥!

「ちょっ‥トラ!恥ずかしいからやめてよ!」
「恥ずかしい?恥ずかしくなんてないもん。好きな人に告白するのはとても勇気がいることではあるけど、恥ずかしがる要素はどこにもないじゃん!緊張するけど!」
「それで緊張してんの!?緊張感ない!!しかも公開告白とかなんなの!?もう、ほんと、ほんとすみません、あの、気にしないで下さい!トラは眼鏡が好きなだけで!ですので!」

そう言いながらウサギは私の腕を引っ掴むと、日向先輩からベリッと引き剥がして有無を言わさず引っ張った。ってか、別に眼鏡だけじゃないし!90%眼鏡が占めてるだけだよ!

「トラは猪突猛進すぎるの!こういうのの時は特に!」
「恋は真っ直ぐ貫いてこそ!」
「煩い!上履き履く!」

ぐいぐいと引っ張られて1年の正面玄関につき、ウサギは私の靴箱から乱暴に上履きを出した。このやり取りは確か数年前にも何度もあった気がする‥その時は、お相手の男子生徒が(眼鏡はかけてたけど)女の子大好き〜な軽いタイプの子が主で、ウサギに全力で止められ幾度も邪魔された。‥でもカッコよかったんだもん。でも、今回はあの頃の比じゃないほどカッコいい!高校生って、いややはり日向先輩ってすごい!

「トラ、あんたほんと人生損しても知らないからね。確かに、今回の人は真面目っぽいけど」
「でしょ?分かってるなら邪魔しないで、大丈夫!」
「今回明らかにあっちが困ってたでしょーが!」

ガミガミと先生みたいに怒るウサギの声を聞きながら、適当に流して相打ちを打つ。次会えるの、今日の放課後だなあとぼんやり考えながら上履きに足をかけた。なんて言ったって、半コートに分けて男子バスケと女子バレーが隣同士で練習するんだから。たくさん部活があるっていうことは、それだけ練習場所も必要だからしょうがないよね。やったあ!と、俄然ガッツポーズになる。

「でも今日授業昼までだから、きっとみっちり基本だよ。日向先輩見てる暇ないと思うけど」
「日向先輩が私を見てくれるように頑張ります!」
「ポジティブすぎてついていけない」













「日向に春?マジで??」
「虎侑さんっていう1年の可愛い女の子だったわよ。妬けちゃうわね〜日向君」

ニヤニヤすな、と監督の頭を叩きかけたが、練習メニューが倍になったらいけないと思い直してやめた。目の前には朝の騒動を聞きつけたらしい伊月がいる。ちなみに、他のクラスのギャラリーがいつもより少し多い。お前ら、くだらねーことに首突っ込んでないで休み時間は有効利用しろっつーんだ。‥いや、まあ、可愛い子だったけど。その虎侑さんの友達らしい子が言い放った"眼鏡が好きなだけ"っていうのは‥その‥なんというか‥地味に心が折れた気がした。

「虎侑さんって言うのか。今度いたら教えてくれよ、日向にべた惚れっていう子の顔見てみたいし」
「俺にべた惚れっつーか眼鏡にべた惚れ的な感じだったような」
「は?」
「今日の放課後見れるわよ〜?その子バレー部だから」
「え?今日一面使えるんじゃないの?」
「体育館の取り合いでね。まあ新人戦近い部活多いからしょうがないわ」

そう言いながら監督は楽しそうにニヤニヤしている。どっちだ‥どっちの意味でニヤニヤしてる‥!?練習試合を頼みに行く所に何かあるのか、それとも、1年の虎侑さんとやらのことでなのか‥!!

「1年だったら黒子や火神と同じクラスかもな〜」
「頑張ってね、日向君」
「どこで頑張れっつーんだ、ダァホ」
「とか言って日向、ちょっと照れてるだろ。顔がニヤついてるぞ〜?」
「黙れ伊月!」

2016.09.30

prev | list | next