ヤバい、朝からめっちゃ光ってる。

歩く度に放つその異彩は見る者を惹き付け、光る眼光に捕らえられようと無意識に足が動く。その眼光はたまに優しく細められるが、すぐにキリリと引き締まった。隣に立つ女性が羨ましい。私もその人の隣に立ちたい。その人の隣で、ドキドキしながら笑っていたい‥

「はいはいトラー、現実に戻ってきてー」
「ったい!」

こんっと何かに殴られた音がして振り向くと、手に傘を持ったウサギが物凄く冷めた目で私を見ていた。その冷め方は酷い。まるで私が危ない珍獣だとでも言いたげな目をしている。

「また眼鏡先輩?飽きないねえほんと‥」
「日向先輩!名前くらい覚えてよね、高校入ってからの私の初恋の人なんだよ、初恋の人」
「トラの初恋の人これで何人目だと思ってんの?」
「分かんない。数えてないよ」
「初恋の人って普通1人だからね」

傘を揺らしながら、ウサギは目の前で溜息をついている。親友なんだから応援してよねー、とは言わないけどさ。私と違ってウサギは恋したことないし、告白されたとかも聞いたことない。中学の時も割と大人しい方だったし、男の子との交流もそんなになかったし。だからこの気持ちを分かれってほうが難しいんだ。いいよいいよ、分かってるよウサギの言いたいことは。

「はあ‥ウサギも素敵な恋ができるといいね。応援してる。そしたら私のこの気持ちも理解できるよ‥」
「私は普通の恋でいいですよーだ」
「日向先輩は渡さないけどね!」
「はいはい。それよりもその日向先輩とやらの隣にいるのは彼女かもしれないけど」
「そこなんですよウサギ」
「あ、ちゃんと見えてたんだ」

なんだその言い方は失礼な。見えているよ当たり前だ!日向先輩の隣に立つ、ショートカットで茶色の髪をした細い女の人は、日向先輩の一言一言に頷きながら笑っている。ていうか、あの人つい最近どっかで見た気がするんだけど。‥思い出せない。

「確か男子バスケ部のマ‥じゃない、監督だ、監督」
「っそうだ!!それだー!!」
「ほんとドンマイ。トラに付け入る隙はないね」
「諦めるのはまだ早い!彼女と決まった訳じゃないでしょ!というわけで自己紹介してくる」
「はいは‥‥って!?嘘でしょ!?」

監督さんが彼女だったならそれはもうすっぱり諦めよう。だって付き合ってるんだったら、日向先輩の良さを分かっているということなんだから私と同志!それに日向先輩も監督さんを選んだんだったら尚の事邪魔はしない!目をまん丸にしたウサギを置いて、私はずんずんと日向先輩を目指して歩く。中学の時みたいにそっと影から見守る恋はもうしない!

「トラが見守る恋なんてしてる所私一度も見た事ないけど」













「‥そういう訳だから、今日は先に練習しといてね」
「わーったよ」

怖え。コイツぜってーなんか企んでる。
朝、偶然我が男子バスケ部の監督と通学していた俺は、監督の輝く瞳を見て絶句した。家を出る前に偶々見ていたテレビの星座占いが2位だったにも関わらず、"人から無理難題を突き付けられても笑顔で快く引き受けましょう"という内容だったのが、今になって恐ろしく感じる。あの占い番組もう見ねえ。今日の授業は、大事な職員会議があるとかで昼までらしく、監督はその時間を使って昼から出掛けるそうだ。どうやら他校に練習試合を申し込みに行くらしい。その笑顔無茶苦茶怖え。ホント。

「すみません」

そんな中、後ろから突如聞こえた声。聞いたことのない少しだけ高めのハスキーボイスに、監督呼んでんだろうなと決めつけて反応しないでいると、振り向いた監督がしばらくして俺の肩を叩いた。監督じゃないのかよ。そう思って振り向けば、グレーのようなベージュのような色をした、内側に少しはねたような、癖っ毛のある髪の長い女の子がいた。‥。

‥誰だ?

「‥‥あれ?日向君、この子と知り合い?」
「や、知らねーよ。てかマジで俺のこと呼んでたの?」
「はい、日向先輩に声をかけました」

え、いや‥‥可愛いけど。そりゃもうなんかちょっとした雑誌のモデルみたいには可愛いけど。そんな爛々とした目で見つめられて、‥嬉しい訳はないけど。なんで俺の名前知ってんだ‥?割と混乱していると、じいいっと女の子を見ていた監督が首を傾げていた。

「虎侑陽菜子ちゃんでしょ、貴女」
「え、は、はい」
「やっぱ監督の知り合いじゃねーか」
「違うわよ。私は一方的に知ってるだけ。パパと仲の良い人がバレーボールに詳しくて、以前月刊バレーボールの雑誌片手に色々聞かせてくれたの。確か、"帝光の獣人"の1人だとか。貴女も誠凛だったのね」
「へー。つか元帝光か‥なんつーか、雑誌載ってても納得しちまうな」
「で、そんな貴女が日向君に何か用だった?」
「はい。あの、私の名前覚えてもらおうと思って!」
「「???」」
「あと、2人は付き合ってるんですか?」

待て待て。俺とこの子本当に初見だよな?突然の爆弾発言に空気が止まり、数秒後に監督が大きく目を見開いて俺と自分を指差しながら困惑している。今日の占いマジなんなの。

2016.09.15

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