「陽菜子、こんな朝早くからどこに行くの?…あら」
ちょっとめかしこんで、普段履かないスカートに足を通して、化粧も薄ら施して、さて玄関に向かえばお母さんと遭遇した。うげげ、鏡で髪の毛確認してる所見られた。そしてすごくにやにやしてる。
「なあに、デート?」
「違うってば!も、もし知り合いとかに会って変な格好見られたりしても嫌じゃん!」
「そっかあ…私も忍さんと出会ったのは高校生の時だったわ〜…良い人見つけてきなさいよ!そしてお母さんにもちゃんと紹介しなさいね!」
「お、デートか?広美にそっくりなお前なら相手も大満足だな。俺にも紹介忘れずに!」
「やだ、忍さんったら…」
「そのやりとり近所で絶対しないでよね恥ずかしい!行ってきます!」
お母さん次いでにお父さんまで参戦してきてしまったら、もう私は逃げるしか無い。この近所で、うちの両親は有名なバカップルだ。仲が良いのはいいことなんだけど、娘の私の前でまでハート飛ばさないで欲しい。ほんとに居た堪れない。
今日は日曜日で、部活も1年生は休み。そんな訳で、ちょっと街まで出て自分のお買い物だ。ウサギを誘ってもよかったんだけど、1人でどこかに行くのは好きだし、ウサギには小さい妹もいるのでやめておいた。あと1つ付け加えるとすると、今日の私の格好は決してデートではない。白のシフォンプリーツスカートに、白のノースリーブセーター。ブルーのデニムジャケット。長い髪は右側に流してツバ広ハット。白のラインストーンがついたブレスレット。黒のレースアップシューズ。
「…いや、まあ、デートに見えなくもないか…」
改めて自分の姿を確認して苦笑いした。いや、でもしょうがないのだ。もし、出かけた先で日向先輩に会ってしまったら、と思うと…後悔しない格好で出かけたいじゃないか。そして「あの美人誰だ?」ってなって、同じ学校だったって知ったら「あ、あの時の…」ってなって、そこから青春ラブロマンスが始まるかもしれないじゃないか!そこまで考えて行動してしまう私すごい。おいそこの野良猫、顔がバカにしているぞ。痛いとか言うなよ。
「いや、それよりスポーツセンターと涼しい下着!」
開口一番におしゃれの欠片もないお店が口から出てくるのはしょうがない。iPhoneで電車時刻を確認して、私は若者で溢れかえる街を目指した。
「失敗した」
街中に足を踏み入れて私はそう確信した。何故か、異様に、人が多い。その人混みの中心にその理由があったのだ。どうやら何かの撮影中らしい。女の子と男の子が入り乱れて、携帯やiPhoneで写真を撮りまくっている。周りの係員を無視しているファンらしき熱気が怖い。
「涼太君こっち向かないかな〜‥!!」
「もーやばい!めっちゃかっこいい…!」
やばいのは貴女の顔ですよ。…とは言えるわけもなく、なんとか人混みを突っ切って出ようと思ったのに、押し流されるわ押し流されるわ、とうとう前方まで来てしまった。てかなんで!!先頭まで来ちゃったら逆に戻るのがキツいっての!!くっそ、あんたらのせいだかんね!!そう目に入ったモデルを睨みつけてみた。…ら、どっかで見た事があった。
「…ああ」
黄瀬涼太だ。富美に雑誌押し付けられた時に載ってたアレ。うっわ、本当に女の子みたい…てかやっぱ足長い、肌超綺麗、そんで……そのキラキラ感なんかムカつく。あの雑誌加工修正してなかったのかと思うと余計にムカつく。
はあ。1つ溜息を吐くと、ごった返す人の波にもう一度足を向けようとした。てかよくこんなに騒げるもんだ。…いや、目の前の黄瀬涼太が日向先輩だったら私も騒いでたか。そう考えたら妙なこの人混みが納得できてしまった。日向順平マジックである。やはり彼は凄い。
「…?」
ふと、一瞬だけ黄瀬涼太と目が合った気がした。にこって、芸能人あるある人の良いスマイルを向けられた気がしたけどそれどころじゃないから無視。人混みに入り込んで、逆走だ、逆走。こんなことになるならわざわざこんな所まで出向くんじゃなかった。
…っていうか、よく考えたら今日バスケ部普通に練習じゃない?ということは、日向先輩がここまでくることは…ないのでは…?
「騙された!」
私の声は人混みにかき消された。
2016.08.08