帝光中学。
その名を聞けば、誰もが男子バスケットの強豪校だと口を開く。全中3連覇と言えば記憶にも新しい。だが、もちろん部活動がそれだけ、という訳でもないし、男子校というわけでもない。しかし今、バスケ以外の部活動が霞むのもしょうがないのかもしれない。"キセキの世代"。それほどに注目されていた。

そして春。帝光中学の”キセキの世代”達は、各々別々の高校へと進学した。そして同時に、帝光中学に通っていた残りの生徒達も自分が決めた高校へと進学する。これは"運命"だったのかと錯覚するほどに、今まで関わりのなかった人物達が足並みを揃えてくるーーなんて、きっと誰もが思わなかっただろう。













誠凛高校1年生になり、入学して早1週間が経つ。時の流れとは本当に早いものだ。そして私はそんな短い期間ながら、とてもかっこよくてイケメンで、もろタイプの人を見つけてしまった。まさに「誠凛来てよかった!」である。目の保養。

「あー‥今日もカッコイイ‥」
「トーラーちゃん。何見てるの?」

トラ。というのは、私 -- 虎侑(こゆき)陽菜子のあだ名だ。小学生の時からずっとそうやって呼ばれてきた、割とお気に入りのあだ名だ。

「え?‥あ、富美。今ねー私朝の大事な栄養補給してるとこ」
「補給?‥って、ああ〜またあのバスケ部のあの人?眼鏡の」
「ヤバイよね。最強にカッコイイ。人生捨てたつもりないけど捨てたもんじゃなかった」
「そ、そう‥」

ふわふわのグレーの髪の毛を揺らして、同じクラスの彼女 -- 佐屋富美は引きつった声を出した。なんで引きつってんの。日向先輩めっちゃカッコイイじゃん。呆れ顔やめて。富美とは、高校に入ってからバレー部の見学中に知り合った。というより、バレー部の先輩との練習試合をするためにコート内で知り合ったのだが、次の日気付けば同じクラスにいたのだ。

「やっぱさー、トラちゃんのカッコイイってズレてると思うんだよね。9対1で私の言ってた先輩の方がカッコイイって票入ったよ」
「皆見る目ないな‥って、票ってなに。そんなことしなくても分かる人には分かるからいーの!あっ、今ボール蹴り損ねた!可愛い〜!」
「‥」

窓側の席でよかった。おかげで体育前にサッカーを練習中の日向先輩が丸見えだ。でも、この間バスケしてる所が超カッコよかったんだよね〜‥日向先輩はきっと何しても光ってるよ〜間違いない‥!

「あ!ねえ、そういえばさ、トラちゃんって帝光中出身でしょ?あの人と喋ったことある?」
「日向先輩のことは高校入ってから知ったしまだちゃんとは喋ったことないよ!これでも奥手「そっちじゃないから!こっち!」ひえ、?っぃだ!!」

べし!!と薄い雑誌を私の顔に叩きつけた富美の手には力が込もっている。いったいなあもう!てか雑誌近い!べりりと雑誌を顔から剥がすと、目の前にキラキラした男の子が映っていた。うっわ‥‥足長、っていうか女の子みたいに肌綺麗だけど色々修正されてんじゃないの?最近そういうの多いから騙されてない‥?

「んで、なに、ダレ?」
「えっ‥‥‥は!!?ちょ、知らないの!?てかなんで知らないの!?」
「知らないよ。モデルの男の子なんて知り合いいるわけないじゃん」
「黄瀬涼太だって!今超人気のモデル!というか元帝光って噂聞いてるけど‥違うの?」
「さあ‥知らないから違うんじゃない?っていうかモデルよりカッコイイとか凄くない?」
「‥節穴‥?」

あの知的な眼鏡、なのにこないだのミニゲームしてる時の日向先輩はちょっと口が悪くてそれはそれでよかったし、笑ったらちょっと可愛かったし‥。

「‥トラちゃんってさあ、最初の印象と今の印象全然違うって言われない?美人で、男の人とか興味なさそうな顔して、まさに高嶺の花系だと思ってたのに‥」
「ありがと、よく言われる、って待って待って!今目が合ったかも‥!?!」
「褒めてないからね!?」

富美の声を右から左に聞き流しながら、雑誌のモデルと日向先輩を見比べては溜息を吐いた。こんなほっそくて、メガネかけてない人がカッコイイとか有り得ない。メガネこそ正義よ!その言葉が口から漏れた瞬間、富美に物凄い勢いで引かれてしまった。これで引かれたの3度目だけどもう気にしていない。












「黄瀬涼太?あー、モデルの人でしょ。うちの中学だったっけ?分かんない」

ですよね。
部活終わりの更衣室で、兎佐希望 -- 通称ウサギと呼ばれる、中学も一緒だった親友に聞いてみたらやはり私と同じ答えだった。まあ、全く同じではなかったけど。ってかなんで知ってんの。

「一応芸能人だからでしょ。トラはそういうの興味ないし、興味合っても眼鏡だろうし気にしなくていいんじゃない?」
「それもそうか」
「イヤイヤ黄瀬涼太ほんとに帝光だから!!信じらんないあんたら!!」
「うわ」

バレー部の先輩の声が更衣室に響き渡る。そ、そんなに威圧してこないでくださいよ!しかし、黄瀬涼太トークに火がついたのか、私とウサギを置いてけぼりにしたまま、周りのバレー部員達は黄瀬涼太のかっこよさについて討論しあうのであった。‥絶対日向先輩の方がカッコイイのに。

2016.08.04

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