「試合?」

とある短い休み時間である。隣で文庫本を読んでいた黒子君から、突然の「そういえば」。ん?何がそういえばなんだろうか。疑問に思って首を動かしてみると、じっとこちらを見つめる黒子君がいた。あ、待って、もしかして私に対して言ってたことだった?

そうして話を聞いてみると、何やら今度男子バスケ部は公式の試合があるらしい。ウサギ、暇ならどうですか?なんて、ゆるりと首を傾げてくる黒子君のあざとさと言ったらもう。いやいや、私だって部活あるんだからね。‥行ってはみたいけど。

「ウサギも部活あるだろうっていうのはもちろん知ってるんですけど、折角今更仲良くなれたことですし」
「黒子君言い方」
「冗談です。あ、試合は冗談じゃないですよ」
「分かってるよー。行けたら行きたいな」
「本当ですか?」

本心で行きたいって言ってるに決まってるじゃんか。黒子君がバスケしてるとこ、もっと見てみたいもん。‥普段と違ってすっごくかっこいいし。あ、いや、普段がかっこよくないと言っている訳ではなくてですね。全然違うんですよ、雰囲気というかなんというか。色々と考えていると、どうやら黙り込んでいることに疑問を感じたらしい黒子君が私の顔をぬっと覗き込んできた。おっと。‥というか、ちか、近い近い近い!

「‥本当ですか」
「ヒッ、ィ!本当ですすみません!!」
「よかった。じゃあ僕も暇だったらウサギの応援に行ってもいいですか?」
「へ??」
「バレーの試合」

えっ、と思わず声に出て、そして慌てて両手で口を塞いだ。いや、え?来るの?試合に?バレーの?コートで汗だくになっているだろう私を観に?‥って、何故私前提なのだ、もしかしたら他の人を観に来たいだけかもしれないのに。‥そう、例えばトラとか。

「?駄目なんですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど‥‥吃驚しちゃって‥黒子君って絶対バスケのことしか興味なさそうだし」
「当たってはいますけどね。でも別にそんなことはないですよ」

当たってはいるのか。いやまあ私も大概バレーのことしか考えてはいないけれど。‥ううん、最近また考えることは増えた。黒子君のこと、よく考えてる。そのことに気が付いたら急激に恥ずかしくなって、慌てて交わっていた視線を外して深呼吸した。

「今日は何時まで練習ですか?」
「え?あ、20時半、‥だったかな」
「そうですか」

そのまま何かを考えるような素振りを見せて、そのまま文庫本へと視線を戻してしまった黒子君はちょっぴり口角を上げて笑っているように見えた。‥って、そうですかって、その後の反応は無しですか?なんで聞いたんだ!そこまで追求することは出来ないままチャイムの音で我に返る。げ、そういえば小テストとか言ってなかったっけ‥‥しまった、何もしてないわ‥。












「稲田ちゃんまた死んでる」
「いや、あんだけ走らされれば流石に死ぬよ‥連続ペナルティで体育館合計30週走ってるんだから‥」
「お疲れでっす」
「あんたが敵チームにいるとボール落ちなさすぎてムカつく」
「リベロだもん。ボールを落とさないのがお仕事ですから」

目の前でぐったりとしているトラは珍しくバテていた。ゲームで1セット取られるにつき体育館10週のペナルティで、1セット目と3セット目以外を走ったトラのチームは満身創痍になっている。もう部活も終了の時間で、ペナルティを受けた以外の部員で支柱やネットを片付けていたのだが。

「ねえ、外に男子いたんだけど、誰か待ち合わせでもしてるの?」

先輩の声にそっと扉の向こう側を覗き見ると、そこにいたのは火神君で。男子バスケ、部活終わったのか。そんなことを考えていると、そのまた奥に人影が見えて眼を凝らしてみた。

「‥黒子君?」

小さく出した筈の声は火神君にも黒子君にも聞こえていたらしい。返事をしたのは火神君だったけれど、私を見た瞬間黒子君が控えめに手を振っていた。‥いやいや、なにあれ可愛いんですけど。

2017.10.18

prev | list | next