「‥」

ちょっと待って。流れで一緒に帰ることになったのは別にいいんだけど、黒子君はなんで何も話しをふってくれないの!?目の前を火神君とトラがわいわい言いながら歩いているのになんだこの格差は。逆に緊張するじゃん、しかもこっちは君に多少なりとも好意を抱いてるんだよ、緊張するじゃん!もう多少ではないけどね!

「‥どうぞ」
「ぎゃあ!!」
「え?」

ぴらり。何事もないかのように突然差し出された紙切れ。な‥なんだ紙切れか吃驚した‥そんな、どうしたんだこいつみたいな顔をするのやめてほしい。次いでその紙切れをそっと見てみると、どうやら公式試合のチラシのようだった。‥ああ、あれか、今日の話のやつ。なんだ、渡すタイミングでも見計らってたのかなと考えていたのも束の間、火神君がくるりとこちらを向いてあからさまに溜息を吐いた。

「おっせ‥」
「ダイヤモンドみたいな強靭なハートを持った火神君には一生僕の気持ちは理解できないでしょうね」
「ダイヤモンド?‥なんだよ、もしかして俺褒められてんの?」
「‥火神君馬鹿なの?」
「は!?」

トラの言葉がどうやら癇に障ったらしく、火神君は思いっきりトラの方へと振り向いていた。‥まあ、つまりはダイヤモンドみたいな硬すぎるハートってことか。ということは、褒められていないのは火を見るよりも明らかである。‥と、それよりもだ。呆れている黒子君の顔をちらりと覗き込むと、そっと声をかけた。だって多分、これ私ちゃんと黒子君に誘われたってことだよね‥?来て欲しいって、‥多分そういうことなんだよね?

「‥あ。すみません、どうかしましたか?」
「えっと、‥何もなかったらほんとーに行っちゃうよ?」
「そのつもりでチラシ渡したんですけど」
「ねえ、トラ、バスケの試合一緒に、」
「そんなに怒んなくてもいいじゃん。てかその発言を聞いて褒められてるとか思うのおかしいでしょ」
「失礼な奴だなおめーは!」

まさに火に油を注ぐが如く、トラの言葉は火神君の神経を逆なでしているらしい。あーあ‥全く私の話しなんか聞いてないや。まあ一旦鎮火してから聞くかあ、なんて苦笑いしていると、黒子君がポケットから何かを取り出した。なんだろうと考えている間に見えたのはガラケーで、そうして何mか進んだ先で私に携帯を差し出した。

「登録してなかったですよね」
「え?う、うん‥」
「会場とかもし分からなければ連絡ください」

あ、ああ‥成る程。私のアドレスでも知りたいのかとどきっとしたけれど、至極当たり前のように迷子を未然に防ぐみたいな感覚にぼとりと緊張がどっかに落ちてしまった。‥いや、でも、黒子君の連絡先を知れたのは棚から牡丹餅的なアレだ。良しとしておくべき。

「あ‥トラの連絡先とか教えた方がいい‥?」
「虎侑さんの?どうしてですか?」
「え?あ、いや‥なんとなく‥」

あれ?実はトラが気になってますとか、そういうことではないんだっけ?だって、前にトラのことよく見てたじゃん。そんな言葉を言えるはずもなくぐうと口を閉じると、首を左に傾げた黒子君。‥なに、あざとい。

「僕はウサギの連絡先が知れればそれでいいんですよ」
「へえ、‥‥へえ?」
「かっこいい所を見せられるといいんですけど‥って、そんな邪なこと考えてたらダメですね。頑張ります」

ふにゃんと笑った黒子君に、心臓を槍で突き刺されたみたいな息苦しさを感じた。だめ、それアウト。自分の携帯電話に黒子君のアドレスと番号を登録して、そのまま黒子君のアドレスに自分の連絡先を送った。これで私達は新たな繋がりが出来たのだ。なんか、恥ずかしいい‥!!顔が熱いのと心臓がどうにかなりそうなのとで頭の中が爆発しそう。参ったなあ、目の前の煩い声、全く聞こえてこないや。

2018.01.27

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