「なんとなく分かってましたよ」

マジバを出て、道中で帰宅の為にトラと火神君とは別れたが(どうやら方向が一緒だったみたい)、黒子君は私と帰る方向がまだ一緒らしい。そうしてドキドキしながらのんびり帰っていると、会話が一旦落ち着いた所で黒子君が爆弾を落としてきた。‥"なんとなく分かってました"。それは、多分マジバでの会話の件だろう。私発言をやらかしたもんな。びくりと背中を小さく震わせると、表情を崩さずにいた黒子君は薄っすらと呆れ笑いをしている。‥と思う。

「‥えーと‥」
「影が薄いのは自覚済してますから気にしなくてもいいですよ。それに、昔はそうだったとしても今は違うじゃないですか」
「そ、それはそうなんだけど‥」
「僕、‥‥‥あ」
「え、っうわぁっ!!?」

リリリンという音色と同時に引っ張られた腕。もちろん引っ張ったのは黒子君だった訳だけど、慌てた拍子に足がもつれて彼の上半身に思いっきりぶつかった。そうして、そこで受け止め切れなかったのがなんだか彼らしいというかなんというか。そのままどしゃりと地面へ倒れたが、不思議と痛みはない。‥あの音色は自転車だな。一体誰が乗っていたんだ気を付けてよね!と、文句もそこそこに顔を上げる。

「‥大丈夫ですか?」

そうして顔を上げた先。鼻が当たるかと思うくらいに、黒子君の顔がすぐそこにあった。‥すっごい近い。近いとかいうレベルじゃない。至近距離だ。‥いや意味は同じか。っていうか!

「ごごごごめん!!!!!大丈夫!!!?」

なんてこった私黒子君の上に乗っかってる!!!?体が触れていたのはそんな彼の胸板だし(制服は着てるから問題ないはず)、腰に回っている暖かい何かもそんな彼の腕である。‥いや冷静にそんなことを理解している場合ではない!!

「おっ‥重くてごめん!!!?」
「いえ、そんなことは微塵も思っていないですよ。むしろ軽いです」
「どきます!!!」
「‥ちょっと待ってください。右の掌、擦れてます。血が、」
「ヒイッ‥ほんとだ‥!!」

痛みはない。訂正。気付いたら痛み出した。思いっきり掌をついていたらしく、ザリザリとした地面のせいで薄い皮膚が剥けて血が滲んでいる。しかも両手だ。しまったなあ、土埃が少しついている。早く洗わなければと立ち上がろうとした瞬間だった。両脇に何かが差し込まれて、体がふわりと浮いたのだ。

「ちょっ‥!!?」
「やっぱり凄く軽いですね。僕でも持ち上げられました」
「ひど、子供扱いして‥!!」
「してませんよ」
「いやしてるでしょ!!」
「してませんし、しませんよ。ちゃんと女の子だと思ってます」
「‥へ?」
「ウサギのこと、女の子だと思ってます」

いやそんなこと真面目な顔で2回も言うかな‥?やば、心臓煩くなってきた‥。じっと黒子君の目に見つめられると、なんだか全てを見透かされてるような気持ちになってくるからいけない。計算でしてるの?それとも天然でしてる‥?

「ウサギ」
「‥?」
「‥‥手、洗いに行きましょう」

‥あれ。そういえば、何か言いかけていたことがあったような‥‥。首を傾げていると、するりと手首を掴まれた。そうして彼の発言の意味を分かり兼ねる。ちゃんと女の子と思ってる。私を。‥と、言うことは‥?駄目だ、脳内の私の恋愛記録なんて、トラに無理矢理押し付けられた少女漫画くらいしかデータがないのだから良い方にしか捉えられない。そう思って黒子君の顔を盗み見たけど、彼が何を考えているのか分からなかった。

2017.05.13

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