「明日の練習試合のスターティングメンバー発表するから集合ー!」

顧問の綾瀬先生の登場で、練習をしていた部員全員の動きが止まった。てかスタメン発表遅すぎないか‥?今から調整するっていうの?大丈夫?そんな私のハラハラとは裏腹に、目をギラギラさせた先輩達は集合するや否やぴしりと姿勢を正している。もちろん私達もそうだ。

「こ‥これで活躍できたらもしかしてそそそのまま正式試合も出れたり‥?」
「稲田ちゃん足めっちゃぶるってるけど‥?」
「だって!!そりゃあないとは思うけど万が一選ばれでもされていたら‥!!緊張でトイレに行く回数が‥!!」
「それは水分取らなきゃいいんだよ」
「ちょっとトラ」
「そっか!」

いや稲田ちゃん納得すんなし。横から割って入ってきたトラはさも当たり前のように発言しているが、そういう問題ではないということに気付かないのか。水分取らなきゃいいとか何歳児の考え方だ、就寝前の小学生じゃないんだぞ。

「発表する前に言っておくが、悪魔でも今の時点でのメンバーだからな。明日の試合次第でまたメンツは変える予定だ。今日選ばれた奴も慢心するなよ」

先生の話しを聞きながらそっと周りを見渡すと、真剣な顔を浮かべる先輩達や、ビビりまくっている同学年の女の子達の顔が目に入ってくる(まあビビりまくっているのは稲田ちゃんだけだけど)。私ももちろんメンバーに入りたいし、先輩には負けたくない。今までの練習にも手を抜くことなんてしていない。まあ、あとは先生が決めることなので、結果はどうあれ文句は言わないけど。‥ただしその時は、悔しいくらい言わせてほしい。

「‥で、セッターは虎侑な」

呼ばれた名前に何故か私がびくりとした。おお、トラは無事にセッターか。流石としか言いようがない。3年生の矢田先輩を差し置いてスタメンとは。やるなあ、くそう。そうしてちらりと矢田先輩を見ると、悔しそうにはしているが、すぐに「そうだろうな」という顔になった。凄い。逆に大人だ。

「リベロ、兎佐。今回は1人だけの投入だ」

やった!呼ばれた!そう思いきや、まさかのリベロ1人投入。え、でもベンチ込みで16人いるんだから、2人投入すればいいんじゃないかという若干の困惑。今度は2年生のリベロ・小松先輩をチラ見。‥‥う、固まってる‥!?

「‥というわけで、ベンチメンバーも以上!これからゲームするから、スタメンとそれ以外で分かれろー」

流れるようにバラけ出したが、体育館の端、がしっとスタメンから漏れた2人の肩を抱くキャプテンの姿がある。嫌な感じではない。けど、負けられないとも思う。べしりと両頬を手で叩きつけると、1つ、大きく深呼吸をした。












「明日の練習試合にスタメンですか。流石です。よかったですね」

おいなんだこれ、どういう流れでこうなった。‥‥‥いや、別にいいけど。

部活が終わってトラと少し喋っていたら、偶々鉢合わせた黒子君と火神君とトラと帰宅を共にすることになり、「腹減った」「マジバ寄りますか?」「寄る」「ウサギ達もどうですか?」という極端に短い会話で全ては決まってしまった。‥というか、決断を下したのは接点が極端に無かったはずのトラである。なんで‥?

「ってちょっと火神君すごい量だね!!?1個ちょーだい」
「なんだよ自分で買えよ虎侑」
「ひーどーいー!私も食べたい!」
「だから買えよ!」
「お金ない」

嘘だこの子。お昼桃のゼリー買って食べてたじゃん!結局トラの可哀想っぷりに負けた火神君は、不服そうにしながらもぽいっと1個投げつけている。意外といい奴なんだな。後で謝っておこう。

「でもウサギも虎侑さんも実力がありますし、驚くことではないですが。おめでとうございます」
「ありがとうございます‥」

頼んだポテトをちびちび食べている私の目の前では、先程頼んだバニラシェイクを啜る黒子君の姿がある。そういえば黒子君はスタメンなんだろうか。あんなプレイするんだからベンチではなさそうな気がするけど。でもそれを聞いてもいいのかが分からなかったので、とりあえずまた今度の会話に残しておこうと、またポテトを1つ。

「黒子君ってバニラシェイク好きなの?」
「はい」
「なんか可愛い好物だねえ」
「‥可愛いとか嬉しくないです」
「あ、ごめん!」
「‥‥てか何、2人とも前からそんなに仲良かったっけ?私そんなの知らないんだけど」
「そ、そりゃあ同じクラスだもん‥!仲良くくらいなるでしょ!」
「中学でも同じクラスでしたけどね」
「‥‥」

あっこれまた墓穴掘ったやつだ。

2017.04.25

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