「これ、よかったら」
「へっ‥あ、ありがと‥!」

黒子君のバスケの練習に付き合って2時間程経っただろうか。割と汗だくの私と、とても汗だくの黒子君。どこでこんな差が出てしまったのか問いたい。ベンチに座って息を整えていると、いつの間にか自販機で飲み物を買ってきていた黒子がいて驚いた。

「なんというか」
「なんでしょーか」
「バスケはボールを一時的に持ってもいい競技なんですけど、条件反射ですか?」
「ぐうの音も出ません‥」

ごく自然に隣に座って、ペットボトルのキャップを開けながら黒子君は小さく笑った。バレーではボールを持つことができないから、ついつい飛んできたバスケットボールをいつもの調子でレシーブしてしまうのは当たり前だ。‥‥ということにしておいてほしい。

「大丈夫ですか?痛くないですか?」
「色んなボール使って練習してたこともあるから慣れたかな。‥や、1回骨っぽいところに当たって痛かったけど」
「赤くなってますけど」
「ひょうっ!?」
「!?」

うわあ変な声出た!大凡女の子とは思えない程に間抜けな声が!!そんな声に驚いたのは私だけではなく、目を丸くした黒子君が、赤くなった腕に触れたまま驚いていた。いや、なんというか、赤くなる現象はしょうがないのだ。バレーボールより重量のあるバスケットボール。慣れたとはいえ、まあ、痛いけども。それよりも、その赤くなった腕に触れている黒子君の方が気になって!!!

「急に触ってすみません‥」
「こちらこそ変な声を出してすみません‥」
「けど」
「?」
「ウサギはやっぱり運動神経がいいですよね」

けど、とは。

「えっ‥そ、そう?」
「ボールに対しての反応が物凄く早かったから、すぐ取られてしまって。なんか凹みました。もっと頑張らないと‥」
「取るというか受けるというか‥そもそも私なんてただバレーしてただけだよねあれ」
「それは否めないですね」

やだ否定はしてくれない。真顔の返答に短い沈黙。そして同時に噴き出した。寒い屋外の小さなコートでベンチに座ってクスクスと笑っている私達は、周りから見たら大層おかしな2人に見えるかもしれない。それか、こ、ここ、‥いや、みなまで言うものか。

「悔しいからまた付き合ってくださいね」
「う、受けないように頑張る‥!」
「それは職業病だとも思いますし、気にしなくてもいいですけど」

職業病て。間違ってないけど。私の手の中にある、黒子君から貰ったスポーツドリンクは未だに冷たい。けれど、先程からそっと腕に添えられている彼の手の所為で、私の掌を伝ってスポーツドリンクが沸騰しそうだった。












「黒子ー!」
「どうかしましたか、降旗君」

とある日の部活の終わった直後、突然呼ばれた僕の名前。振り向くと、ワクワクとそわそわを全面に押し出したような降旗君がいた。どうしたというのか。じっと彼の目を見ていると、なんだか何を言われるのか分かった気がした。「黒子の姿を今日のゲームで初めて確認できた!」そんな所だろう。あんまり集中できてなかったから、僕の注意力(というか観察力?)が散漫だったということか。気を付けなければ。

「黒子って彼女いたんだな!!」

え?予想を遥かに裏切られた回答だった。今日のゲームのどこをどう見たらそういう回答に繋がったのかよく分からないけど、僕が言えることはただ1つ。

「いませんけど」
「えっ!!だってこの間‥!!」
「黒子に彼女ってマジかおい」
「影薄くても彼女ってできるモンなのか?」
「黒子を認識"できる"‥だと‥"出来る"‥!!」
「伊月ー黙れー」

いないけど、周りの反応が大変遺憾だ。

2017.01.20

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