「ごめんね、未来おんぶさせちゃって‥」
「大丈夫ですよ。こんなのいつもの走り込みに比べれば全然」

その比較はちよっと分からないんだけど。男子バスケット部の走り込みがはたしてどんなものかは知らないが、あまり深く追求しないことにした。バレーの練習で疲れたのか、うとうとしていた未来をおんぶしようとしていた所を黒子君に遮られて今に至る。わざわざ家まで送ってくれるらしい。良いって言ったけど黒子君の優しさに絆された。嬉しいけどなんか悔しい。

「ちゃんと練習付き合うから‥ありがとう」
「いえ、こちらこそ助かります」
「でも私で役に立つかな。バスケ、別に得意ではないし、苦手な訳でもないけど‥」
「それは僕だって、バレーの練習相手にはならなかったじゃないですか」
「や、それはあれだよ。未来相手だったし‥って!別に黒子君が下手って言ってる訳じゃないんだけど!」
「いや、下手だったでしょう。それにウサギも笑ってたじゃないですか」

さらりと真顔で言い切った黒子君にうぐぐとなりつつ首を横に振る。確かに、綺麗に上に上がったボールが思わぬ所に飛んでいった時は笑っちゃったけどさあ。未来が酷く大笑いしてて、黒子君は真顔ながら少しむってなってたし。

「黒子君も、私が下手だったら笑っていいよ」
「笑いませんよ」
「へっ」
「ウサギは僕の為に付き合ってくれるだけなんですから」

真面目か。その真面目な顔でちょいクサい台詞吐くのやめてくれないかな。冷えた筈の頬が少しだけ熱い。じっと私の目を見ている黒子君から慌てて目線を逸らすと、持っていたバレーボールを上に上げた。1人レシーブ練習でもして気を紛らわそう作戦だ。ふと気付いたがこの状況を誰かに見られたらもしかして勘違いされてしまうのではないだろうか。

「ウサギがボールを触ると、なんだか忠実なペットみたいですね」
「?どういう意味?」
「自分の意のまま、というか」
「え、ほんと?それ嬉しいかも」
「?」
「バレーってさ、バスケと違ってボールに触るの一瞬でしょ?だから普段から慣れるようにできるだけボールに触れる時は触るようにしてて。だからそう見えてるなら、私はちゃんとボール上手く扱えてるんだなあと思って」
「成る程」
「でもこの間の黒子君も凄かったけどなあ」
「この間?」

あ、もしかして黒子君自覚ないのかな。自分が凄いことしてるって。

「前に先輩達とゲームしてたでしょ?その時の黒子君がさあ、なんかもう凄かったもん。ボールが思わぬ所に飛んで、ええっ!?てなった時にはいつの間にかゴール決まってたし、ボールが神隠しにあってるみたいだったから、もう、‥‥よく分かんないけど凄かった!」
「僕は凄くないですよ。点を取っていたのは火神君や他のチームメイトだったでしょう」
「なにその謙遜。駄目だよー、縁の下の力持ちいてこその攻撃が生きるんだから。私も点を取ることはできない、けど攻撃に繋ぐことはできるから」
「‥なんだか、僕達似た者同士みたいですね」
「似たッ‥?」
「"影"同士、お互い頑張りましょう」

影、とは。よく分かんないけどなんかそれカッコイイ。少しだけ笑って、すたすたと前を歩いて行く黒子君を呆然と眺めていると、ピタリと止まって彼は振り向いた。びくりとして片手でレシーブしていたボールを受け止める。な、何何何‥!?

「すみません、ウサギの家はここを真っ直ぐで良かったですか?」
「ウッ、はい!」












中学時代、2年間同じクラスだった兎佐希望さんと言えば、ちょっとだけ大人しめの普通の女の子で、虎侑さんという仲の良い子と一緒によくいて、バレー部である、というのが主な記憶だ。ただ一度だけ、スーパーレシーブと呼ばれていた神懸かったプレイを、僕が帝光バスケ部から離れた時期に、中学バレー全国大会を生中継していたテレビ番組で目の当たりにした。

"兎佐のスーパーレシーーーーーブ!!!!"
"いやあまさかあの距離を取るとは思いませんでしたねえ!!"
"この試合中兎佐はコート内をずっと走り回っていますね。体力的には限界を迎えていてもおかしくなさそうですがどこにあんな気力があるんでしょうか?"
"後衛が兎佐以外動きませんからね〜。確かに低い位置からのトスでギリギリ白帯から狙う速攻は、兎佐のレシーブあってこそのことではあると思いますが‥"


凄いと言うなら、きっと彼女の方が相当凄いと思う。でもあの試合は、不可解なことが多かった。僕が帝光バスケ部を離れる前の、あの嫌な感覚とよく似ていた気がする。

"エース鴻決めたーーーーーーー!!!!!"
"帝光中学3年連続優勝ーーー!!見事な貫禄を見せつけ‥、‥"


その嫌な感覚は、僕よりもテレビの向こう側の方が強かったのだろうけど。

2016.12.06

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