「未来、はいっ」
「とおーっ!」

とあるバスケットコートにて、私は妹の未来(みらい)を連れてバレーをしに来ていた。だって他の公園スケボーとかに取られちゃってるんだもん。大丈夫、端っこでしかやんないから!‥という自己完結。誰もいないしいけるいける。そう未来にも言い聞かせて今に至る。ボールをアンダーでパスしてやると、小さい手がぺちりとボールに当たって、叩いた真下にてんてんと落ちていった。‥‥打ててない!!!でも可愛い!!!

「おねーちゃん、どお?どお?!」
「その調子で頑張れ!」

あと2年後に小学生になる我が妹は、私がバレーボールで初めて試合に出た後からバレーボールにはまったらしい。私は花形のアタッカーでもなく、その頃トラとセッターを取り合いしていたというのに。小さい子供の思考回路はよく分からん。が、まあ、嬉しいのが半分をしめているけど。しかしまあ不服なことに、結局未来はアタッカーになるのが夢らしい。最初聞いた時は聞き間違いかと思ったわ。

「わたしがおねーちゃんのこれをうつ!」

これ、とはどうやらパスのことらしい。お姉ちゃん大好きかよ泣くわ。そんな楽しそうな未来に思わずにへら〜と顔が緩んだ。

「もっかい、もっかい!」
「はいはい」












‥というのを、約1時間は繰り返している。今日は部活早く切り上げだったし、休みたいな〜、というのは言ったら泣かれるから駄目だ。しかししんどいかもしれない。今日の鬼練の成果えがまだ体に重くのしかかっているのだ。まあ、別にいいんだけど‥最近あんまり遊んでやれてないし。

「行くよー!」
「あの」
「ぅんぎゃああああ!!!」

未来に行く筈だったアンダーパスが、驚いた拍子に親指へとヒットして、まるで漫画みたいに別方向へ大きく空に弧を描く。そして、狙った訳でもないバレーボールは、バスケットコートのゴールの中へと吸い込まれていった。

「おねーちゃんすごーーい!!!」
「すごいです。普通は中々こんなこと出来ませんよ、ウサギ」
「くくく黒子君!!?吃驚した!!」
「僕も大分吃驚しましたよ。さっきからいたんですけど、気付いてもらえなかったので声をかけさせてもらいました」
「恐怖」
「‥言い過ぎです」

おっと失礼。ムッとした黒子君にごめん、と一言謝ると、未だ目をキラキラさせた未来へと手を伸ばす。変なこと覚えないといいけど。

「そちらは?」
「妹の未来。公園空いてなくて、コート借りてたんだ。邪魔はしないから端っこでやっててもいいかな?」
「もちろんですよ。初めまして、ウサギと同じクラスの黒子テツヤです。よろしくお願いします」
「みらいです!テツヤくんはじめまして!」
「きちんと挨拶ができるなんて未来さんはとても偉いですね」
「えへへ〜」

なにこの可愛いの2人。しかも、黒子君、ウサギって‥ウサギって呼んだ‥‥何これ可愛すぎて死ぬかもしれない‥。表情筋がヤバイ。

「み、未来、じゃあ、続きやろっか、」
「テツヤくんともいっしょにバレーしたい!」
「「え?」」
「おねーちゃんとなかよしならわたしともなかよくしてほしいのー!」

小悪魔か!!と、未来にテレパシーをしてみたが、できる訳はない。黒子君が困っている。困りながらも顔色はほとんど変わっていない。てか急に何言ってるんだと、慌てて黒子君の持っているバスケットボールを指差した。

「未来、黒子君は今からバスケットの練習するの。それに、未来も今私とバレーの練習中でしょ?」

「えー!テツヤくんとバレーしたい!」

あああー。出た、1日に数回現れる駄々っ子未来。バレーボールをぎゅっと握って、わくわくした目を私ではなく、黒子君に向けている。‥おい、なんか頬っぺた赤くないか未来。

「僕、バレーボール得意ではないですよ?」
「いいの!」
「‥‥じゃあ、少しだけでいいなら参加させてもらっていいですか?」

ま じ か よ 。
困ったように、でもふわりと笑った黒子君にまたむず痒くなる。そんな、私に任せてバスケット練習すればいいのに。私を置いて未来は黒子君にバレーボールをパス(というか投げる)と、びしっと両手を伸ばして‥スカした。

「‥めっちゃカッコいいスカし方するのね‥」
「だから言ったじゃないですか、バレーは得意ではないと」

真顔で腕伸ばしてスカすものだから、思わず笑みがこぼれてしまった。未来はそんな黒子君がスカしたボールを、コートの端っこまで追いかけている。

「ごめんね、黒子君。妹の我儘に付き合ってもらっちゃって」
「いえ。‥でも、もしよかったらウサギも後で付き合ってくれませんか?バスケの練習。偶には相手をしてくれる人も欲しくて」
「え。あ‥あの、未来送ってからでいいなら‥」
「ありがとうございます」

私でいいんだろうか、という思考が過ぎった処でやめた。どこか、誘ってくれて嬉しかったという気持ちがあったからかもしれない。なんだか小っ恥ずかしくて黒子君のバスケットボールを奪い取ると、すすす、と自分の顔を隠した。あー、熱い。

2016.10.19

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